落語のご案内   (院長)

落語家さんの姿は毎日テレビで見られ、日本テレビの“笑点”も50年以上続く長寿番組として親しまれています。しかし、実際に寄席や落語会に行かれた経験のある方は、比較的少ないかもしれません。今回は、落語に馴染みの少ない方や興味を持たれている方へのご案内です。私自身も落語の初心者ですので、落語通の方がいらしたらご一笑下さい。

1)落語の登場人物

一般に名前が知られているのは、「熊さん、八つぁん」「与太郎」あたりかと思います。それぞれ欠点はあるものの、憎めない人達です。また生真面目であってもどこか落ち度(弱点)のある人達も出てきます。面倒見が良いのは「ご隠居さん」や「おかみさん」でしょうか。落語の世界には、強い正義の味方や根っからの悪人はいません。

2)落語のお話

話の内容としては、とにかく笑えるものと身につまされる切ない話(人情話)があります。切ない話であっても悲劇で終わることはなく、必ず最後の「おち」でホッとさせてくれます。

立川談志師匠(2011没)は「落語とは、人間の業(ごう)の肯定である」との言葉を残しています。業とは「人間のダメな部分」ですが、世の中の常識からすれは、しくじった奴やダメな奴でも「しようがねえなあ」と笑いにして認めてくれます。落語自体が、ダメな部分(負け)から始まっているので、勝ち負けにこだわらず身構える必要はありません。落語の登場人物は「折り合い」を付けるのが上手で、基本は「引き分け」です。

3)漫才との違い

テレビで見る漫才は、観客の笑いの量(ボルテージ)で評価されます。一方、落語の場合は「お客さんの共感」を得ることかと思います。「人情話」では笑いのボルテージは上がりませんが、聞き終わった後に“いい話だった”“ほっとした”と思えると満足できます。

4)落語を見るに

寄席:都内には4か所の定席寄席があります。新宿末廣亭、鈴本演芸場(上野)、浅草演芸ホール、池袋演芸場です。基本は昼夜2部制ですが、入れ替え制ではありません。内容は、落語に加えて、漫才・コント、奇術などがあります。プログラムは10日ごとに出演者や内容が変わります。チケットの予約は必要なく、入口で入場料である「木戸銭(きどせん)」を払います。通常の興行では一般3000円程度です。入退場のタイミングは自由で、好きなときに入場・退場できます。寄席は客席での飲食も自由です。私は近くのデパ地下で美味しそうなお弁当を買って行きます。

ホール・公会堂など:伝統があるのは1966年に始まった紀伊国屋寄席(新宿)で、月に1回行われており既に700回を超えています。通常は月に1回(月例)の落語会が多いようですが、例外としてはPARCO劇場(渋谷)で立川志の輔師匠が毎年1月に行う「一か月公演」があります。単発もしくは月例の落語会は、埼玉県内や都内の所々で行われて、インターネットで確認、予約ができます。

おわりに

・私は特に予定のないいわゆるヒマな時に寄席に行っています。落語で何かを学んで日々の生活に役立てるなどということは決してありませんが、落語を聞くとなんとなくのんびりしたほっこりした気分になれます。

・以前はテレビやラジオでの落語番組がありましたが、今は殆ど見かけません。ただ、YouTubeで落語を見ることができ、かつての名人の高座も楽しめます。

・落語の時代背景は基本江戸時代です。落語の世界にあって、今ではすたれつつある言葉としては、「おたがいさま」「大目に見る」「かわりばんこ」「やせ我慢」あたりかと思います。最近はコスパや効率が重要視されていますが、時には「なんとかなるさ」「まあいいか」という呑気な考えも必要かと感じています。

2024年6月1日

石川 進

付録:新宿末廣亭

寄席らしい風情がある木造の建物です。