嚥下障害の方に、より食べやすい軟飯を目指して

 

栄養科 科長の山浦 歩(やまうら あゆむ)と申します。

 

突然ですが、皆さんは食べ物・飲み物を飲み込む(嚥下・えんげ)際にむせた経験はおありですか?

・・・これを誤嚥と言いますが、経験した事の無い方はいないと思います。                  

 誤嚥が高い頻度で起こると誤嚥性肺炎に繋がったり、上手に食べられなくなるため食べることが億劫になり、栄養不足、体重減少、免疫低下に繋がることも多々あります。

 当院では主食として、普通の硬さのご飯、軟らかめの軟飯、全粥、ミキサー粥ゼリーなどを用意し、主治医やリハビリテーション専門医、言語聴覚士、管理栄養士等が相談し、個々の患者さんの嚥下機能に合わせて食事を調整し提供しています。

 

<厨房と病棟を行き来して気付いた、軟飯の危険性

 軟飯は、普通のご飯よりも水を多くして炊きます。一般的には、普通のご飯は重量比でコメ1:水1.5-2程度で、軟飯は米1:水3とされています。家庭用の電気炊飯器で炊く場合には、通常の炊飯をすると水が吹きこぼれてしまう事がある為、お粥モードで炊く事が推奨されています。当院でも従来はこれに倣いご飯と軟飯を分けて炊いていました。炊きあがり時、確かに軟飯は軟らかいですが、粘り気は普通のご飯よりも強い印象でした(もち米のようなイメージです)。

 また厨房で盛付けしてから、実際に患者さんに配膳されるまでは1時間ほど時間経過してしまうのですが、実際に食事の時間に患者さんが食べているところを見にいくと、厨房での炊きあがり時よりも更に軟飯の粘り気が強くなっている事に気付きました。

 これでは、たとえ軟らかくても嚥下障害を有している場合には飲み込みづらく、誤嚥や窒息に繋がりやすいのでは・・・と感じ、何とか粘り気を抑える方法はないものかと研究を開始しました。

 

<酵素米飯の開発>

 軟飯の粘り気を抑えるため、お粥からとれた重湯をご飯に混ぜたり、油を混ぜて炊飯したり・・・と様々な紆余曲折を経て数年単位で開発されたのが、アミラーゼというでんぷん分解酵素を含有した酵素入りゲル化剤(粉末)を、通常の米飯に混ぜて作った「酵素米飯」です。

 作り方は、いつも通りにご飯を炊き(コメ1:水1.5-2)、その後酵素入りゲル化剤を振りかけて少し混ぜ、馴染ませるだけです。

 精密機器を用いて硬さ・粘り・バラつきやすさを数値化した検査では嚥下食の基準をクリアし、また患者さんに実際に食べていただいたアンケート調査では従来の一般的な軟飯と比べて外観・味・香り・粘り気・硬さ・総合評価の全項目で有意に高い評価を得ました。

嚥下障害の方に対してネックとなっていた時間経過による粘り気の増加もなくなり、とても食べやすく美味しいと好評をいただいています。

その結果を2023年9月に開催された日本摂食・嚥下リハビリテーション学術集会にて発表しました。また論文としても学会誌に掲載される事が決定しています。

 

現在当院で入院患者さんに提供している軟飯は、この酵素米飯です。

食べやすさを重視しお粥くらいまで水を増やしてしまうと、グラム当たりのエネルギー密度が下がってしまう事が栄養の領域ではよく問題になりますが、この酵素米飯はその問題も解決しており、入院患者さんの栄養状態の改善に寄与しています。

 また当院では、酵素米飯以外にも全ての嚥下食に対して精密機器による硬さ・粘り・バラつきやすさのチェックをしているため、嚥下障害をお持ちの方にも安心して食事を召し上がっていただけます。

  

<嚥下障害について心配な方へ>

当院では飲み込みについての検査を行っています。飲み込みがしにくくなった等、気にかかる点がございましたら受診時に担当医師にご相談いただけたらと思います。

また毎週木曜日の午前にはリハビリテーション科の鈴木英二医師が外来にて専門的な診察を行っています。

VF(嚥下造影)検査、VE(嚥下内視鏡)検査等の各種検査も可能です。

また、嚥下障害に関する栄養相談では、患者さんの状態に合わせた介護食の作り方、市販の介護食・宅配食についての紹介や、摂食不良による体重減少を止め、栄養改善するためのアドバイス等も行っています。

  

<栄養相談のご案内>

外来栄養相談(指導)は糖尿病、脂質異常症、高血圧、心不全、慢性腎不全、がん、痛風、高度肥満、嚥下障害等で可能です。

月~金曜日:9時~16時

土曜日:9時~12時   まで受け付けております。

栄養相談をご希望の際は、当院の主治医の診察時にその旨お伝えいただくことで予約が可能となります。

 ※当院栄養科及び栄養相談の詳細は、ホームページの部門紹介よりご覧いただけます。