感染関連情報・新型コロナの流行時期 (院長)

ようやく冬の寒さが一段落してきましたが、市中感染症はいまだ続いています。当院では、現在は新型コロナ、インフルエンザともに院内感染は見られていませんが、引き続きの注意が必要と考えています。

Ⅰ.全国および埼玉県の感染状況

①新型コロナウィルス

全国の感染状況は、2月25日までの1週間では、1つの医療機関当たりの平均患者数(定点報告数)が7.92人で、2月初め(2月4日まで)の16.15人と比べて減少しています。埼玉県は、全国平均と同等で8.34人でした。

②インフルエンザウィルス

全国のインフルエンザの患者数は、2月25日までの1週間で1医療機関当たり20.64人で、2月初め(22.62人)と比べて未だに高い水準です。埼玉県は、全国平均よりも多く29.0人でした。特に今年はA型の流行後に新たにB型が流行する2段階の流行となっています。今年の感染者数は2023年の概ね2倍で推移しています。

Ⅱ.新型コロナウィルスの感染経路

感染経路は3種類に大別されますが、新型コロナウィルスでは飛沫感染と接触感染の二通りが主です。                       「飛沫感染」とは、感染症患者の咳やくしゃみの「しぶき(飛沫)」を直接吸い込むことによって生じる感染経路のことです。くしゃみのしぶきは半径2mの範囲にまで飛び散るとの報告もあり、すこし離れていても飛沫感染する可能性はあります。飛沫感染する感染症は、インフルエンザ、風疹、おたふくかぜ、百日咳、マイコプラズマ、風邪(ウイルス性)、RSウイルスなどです。

「接触感染」とは、手に付着した病原体を体内に取り込んでしまうことで生じるもので、多くの感染症で感染経路となります。感染を防ぐには手洗い、消毒が必須です。接触感染は、通常行われている手洗いや消毒などで防ぐことが出来ます。

「空気感染」とは患者からの「しぶき(飛沫)」の水分が蒸発して、空気中に浮いた病原体を吸い込むことによるものです。空気中を漂う病原体の大きさは5μm以下と極めて小さいため、予防には通常のマスクでは不十分で、繊維が細かい「N95」と呼ばれる特殊なマスクが必要です。空気感染する感染症には、はしか、水ぼうそう、結核などがあります。

Ⅲ.新型コロナウィルスの流行時期

飛沫感染する呼吸器感染症は一般に夏は流行しにくいとされます。夏は屋外で活動する時間が長いため、屋内活動が多い冬よりも人が密にならないからです。しかし、日本では夏と冬に新型コロナの流行が起こっています(下図:NHKニュースより引用)。今回は、日本で夏にコロナ流行が起こってきた理由について調べてみました。

1)日本の気候や習慣といった特殊事情が関係している。

①梅雨時や真夏には換気は不十分となりやすい

熱帯地方では飛沫感染が雨期に多く見られます。雨期は屋内で過ごすことが多く、人の間隔が密になりやすいためです。日本でも梅雨の時期は屋内で過ごす時間が長く、夏になると酷暑のため冷房の利いた屋内で過ごす時間がさらに続きます。それだけ飛沫感染が起こりやすくなっています。

②夏休みやお盆で人との接触が多くなる。

日本の夏の特殊事情と言えるのが、お盆という習慣です。お盆には短期間に多くの人が夏休みを取って里帰りをします。家族や親戚が集まり食事する機会が増え、この時期には旅行をする人も増加します。その結果、お盆の時期は人の移動や接触の機会が増して、新型コロナが流行しやすい環境になります。

2)夏に新しい変異株が流入しています。

21年はデルタ株、22年はオミクロン株BA5で、ともに感染力の強い変異株でした。23年はオミクロン株XBBで感染力は強くないものの免疫回避はしやすい変異株でした。                                

3)自然免疫やワクチンの効果が不十分である可能性があります。

インフルエンザウィルスは古くから流行している病原体で、私たちは一定の基礎免疫を持っているため、飛沫感染の起こりにくい夏に流行しません。一方で新型コロナは新しい病原体で、日本で感染に対する免疫を持っている人は5割以下とのことです。欧米諸国ではこの数値は7割以上です。

まとめ 

1)新型コロナの感染予防で最も重要なのは、マスク着用により飛沫感染を防ぐことです。市中ではマスクをしない生活が戻ってきていますが、私自身は病院内、電車内、混雑した場所ではマスクを使うようにしています。

2)2番目は換気だと思います。梅雨やお盆は例年のことで、最近は猛暑も続いていますが、他の病気の予防も含めて換気は必要です。

3)新型コロナに対する基礎免疫が広まるにはもう少しかかるかと思います。免疫獲得には、自然感染もしくはワクチン接種が必要です。ワクチン接種は2024年4月以降は有料となるため、個人の判断が大切となります。

4)インフルエンザでは、有効な内服薬や吸入薬があるため外来での対応が可能です。新型コロナでも同様の薬がでるまでは、現在の予防策継続が必要です。

2023年3月4日

石川 進