歯科治療と歯周病予防(院長)

 

今年の1月末より歯科に通院しています。きっかけは昼食中に口の中に固形物を感じたことで、確認すると根元から欠けた右下の奥歯でした。数年ぶりに歯科を受診してみると、悪いのは欠けた奥歯だけでなく、全体に歯周病があり歯肉は腫れて出血しやすくなっていました。また、前歯以外の大部分の歯は根元が齲歯(虫歯)となっていました。それから、半年を超える通院が始まり、齲歯の全面修復の後にようやく当初の目的であった欠けた歯のインプラントにたどり着きました。

今回は、歯周病を予防して、自分の歯と健康を守る方法に関して勉強してみました。担当の先生に教えて頂いた事柄も含めて書きます。ご参考になれば幸いです。

 

1)歯周病とは 

テレビCMでも見かけますが、歯周病は30歳以上の成人の約80%がかかっているそうです。歯周病は、細菌の感染によって起こる炎症性疾患で、歯ぐき(歯肉)や、歯を支える骨(歯槽骨)などが溶けてしまう病気です。原因は、歯と歯肉の境目(歯肉ポケット)の清掃が不十分なことです。そこに多くの細菌が停滞し歯肉の辺縁が炎症で赤くなったり、腫れたりします。問題なのはほとんどの場合は痛みがないことで、さらに進行すると膿がでたり歯が動揺したりして、最後には歯を抜かなければならなくなります。

歯の構造日本臨床歯周病学会のホームページより転載

2)歯の磨き方:歯ブラシは45°で。

 小学校の頃〝歯磨きは上下に、縦方向にしましょう“と教わりました。

私は若い頃から歯磨きは好きな方です。最近数年間は電動歯ブラシ~音波振動歯ブラシを用い、寝る前には必ずマウスウオッシュも使っていました。私の誤りは、いわゆる歯の表面を磨いていた(いわゆる歯磨き)をしていたことで、歯と歯肉の境目(歯周ポケット)は磨いていませんでした。また、数年前から、歯が伸びたように感じていました。歯肉が後退したものと考えていましたが、実際は歯を支える歯槽骨が歯周病で壊れて(溶けて)短くなっていたのでした。

 現在は、歯と歯肉の境目に歯ブラシを45°であてて磨いています。歯の裏側は歯ブラシが当てづらいのですが、ブラシの根元寄りを使うと磨けます。磨けているかを手の感触で確認するため、電動歯ブラシはやめて手磨きに戻しました。歯間ブラシも併用し、歯と歯の間も清潔に保つよう努めています。

 

3)年齢による残歯数の変化

歯は全部で32本で、うち4本は親知らずなので、それを除けば28本です。

2016年の調査では、残っている自分の歯の数(現歯数)はグラフの通りで、55歳より急速に減少します(資料1)。

年代的な推移をみると、60歳前後(55~64歳)では2016年の現歯数は24本で、1975年の現歯数14本よりも増加しています。75歳以上では1970年代では残っている歯の平均本数が5本未満だったのが、2016年では15本と増加しました。

現歯数が近年増加傾向にあるのは、1989年から始まった8020運動(ハチマルニイマル運動)の貢献があると思います。これは、「80歳になった時に20本以上自分の歯を保とう」という取り組みです。20本以上あれば食事の時にしっかりと噛むことができ、「食べる」のには困らないと言われています。残存歯の減少は「食べる」以外にも問題となります。残存歯数の少ない人では要介護になるリスクが高くなり、特に中壮年期の比較的若い時期に歯牙喪失を起こして残存歯数が減少した人では要介護のリスクが顕著と報告されています(資料2)。

 

4)歯周病と内科疾患との関連

以前より、歯周病が持続すると多くの内科疾患が進行し悪化することが知られています。具体的には、動脈硬化(冠動脈疾患など)、糖尿病、誤嚥性肺炎、骨粗鬆症(転倒、骨折を含む)などです(資料3)、最近ではアルツハイマー病の進行と歯周病との関連が話題になっています。誤嚥性肺炎は我々がよく接する入院理由の一つです。中には食物誤嚥のエピソードが明らかでない場合もあります。高齢者では咀嚼・嚥下機能が低下していることが多く、口腔内の汚染があると唾液の誤嚥でも肺炎が起こりえます。入院患者さんに対して、看護師が口腔内ケアや歯磨きを行うのはこのためです。いわゆる健康寿命を延ばすためには、歯の健康維持が重要です。

 

おわりに

今回、奥歯が欠けたことをきっかけに歯科を受診しましたが、結果として齲歯のみでなく歯周病の全面治療に至りました。今までの歯科受診は齲歯が傷んだ時のみで、いわゆる修復(補填)治療をお願いしてきました。私の年齢を考えると、自分の歯がなくなってくる手前で踏みとどまった感じがして、幸運であったと思っています。現在、私の口の中には自分の歯が24本残っています。80歳で20本を目標に頑張りたいと思っています。

現在では予防歯科の重要性が認識されています。数年来歯科にかかっていない方、特に55歳以上の方には歯科受診をお勧めします。

参考資料

1)厚生労働省.歯科疾患実態調査: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17.html

2)馬場 みちえ, 畝 博:要介護と残存歯に関する疫学研究.日本老年医学会雑誌2005;42:353-359

3)波多野尚樹:口の中をみれば寿命がわかる,小学館,東京,2015