女性に多い疾患、例えば新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシー

男女の違いで発症率が圧倒的に異なる場合、「性差を考慮した医療」が必要になります。女性が男性よりも罹りやすい疾患として、甲状腺疾患、膠原病、骨粗鬆症、神経性やせ症などが知られています。
なぜそうなのか。
色々言われていますが、その理由は必ずしも明らかではありません。
前回述べましたように、女性ホルモンの変動が一部に関与していることは間違いありません。例えば骨粗鬆症は、更年期以降に起こる女性ホルモンの急激な減少と関係しています。

最近の話題の中で性差を強く印象づけたのは、新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーです。

以前このブログでも述べましたが(2021/2/15)、米国でのデータによれば、新型コロナワクチン(mRNA型であるファイザー社製およびモデルナ社製)接種後のアナフィラキシーは、女性にほぼ限って生じています。64歳以上では男女ともゼロでした。この性差、年齢による差はなぜなのか。さまざまな仮説が出ています。

比較的有力視されている説として次のことが言われています。
ファイザー社製ワクチンの主成分はmRNAです。mRNAは薄い脂肪の膜に包まれています(リポソームと言います)。リポソームを安定的に保つためにポリエチレングリコール(PEG)がワクチン液には含まれています。PEGは、ワクチンが人間の体に入ったときリポソームを細胞内に取り込ませるのにも役立つとされます。そのためmRNA型のワクチンにPEGが欠かせません。
mRNAと脂肪膜がアレルギーの原因物質になる可能性はもちろん否定できませんが、どちらも生体内に普通に存在するものです。そこから、PEGがアナフィラキシーの原因物質かもしれない、という話になりました。

PEGは医薬品では緩下剤(穏やかな下剤)に使われています。医薬品以外で圧倒的に多く使われているのは化粧品です。非イオン性界面活性剤として乳液にたくさん含まれているとされます。
となると、化粧品を多く使う女性は既にPEGに対して感作されているのではないか、そのため女性にmRNA型ワクチン接種後のアナフィラキシーが多いのではないか、という仮説が出てきたというわけです。

その真偽の程はさておき、ファイザー社製の新型コロナウイルスワクチン接種後のアナフィラキシーが日本では欧米の報告よりも多いことが注目されています。
現在、日本では医療従事者にファイザー社製ワクチンが接種されています。接種を受けた医療従事者約17万人のうち7人にアナフィラキシーが発生したというのです。そのほとんどが女性でした。

mRNA型ワクチン接種後の副反応については、このブログで紹介したことがあります(2021/2/15)。ニューイングランド医学誌(NEJM)の報告ではファイザー社製ワクチン990万余りの接種では47回のアナフィラキシー、すなわち22万5千回に1回のアナフィラキシーの頻度でした。
ところが日本の医療従事者では、2万7千回に1回のアナフィラキシーだというのです。確かにNEJMの報告より頻度が10倍近く多いことになります。

なぜか。
アナフィラキシーの定義に差があるのかもしれません。しかし、重篤な呼吸器障害あるいは循環器障害(低血圧)を伴う急性アレルギー反応がアナフィラキシーだという根源的なところは日米とも同様のはずです。あるいは、日本人の特殊性でしょうか。移民の国であるアメリカのデータでは人種差は報告されていないように思います。日本では全て病院内で医療従事者に接種されていますので、アメリカと違って副反応の見逃しが少ない、というのも理由になるかもしれません。しかしこれも一桁違いの説明にはならないように思います。

それ以外の理由を考えてみました。
NEJMのデータは男女を合わせたものです。コロナ対策の重点対象者として高齢者が多く含まれています。そうした人たちを全て含め、22万回に1回のアナフィラキシーだったわけです。繰り返しますが、NEJMのデータでもアナフィラキシーのほとんどが女性でした。
日本では今のところ医療従事者のみのデータです。ワクチン接種を受けた医療従事者の多くは看護師です。看護師の多くは比較的若い人たちです。しかも圧倒的に女性が多数を占めます。このことが一桁違いの原因ではないでしょうか。
それを証明するにも否定するにも、性別・年齢別のアナフィラキシー発生率を計算しなければなりません。
必要なのは、男女別及び年齢層別にワクチン接種者数とアナフィラキシー発症数を見たデータです。残念ながらNEJMの報告でも、日本の医療従事者についての報告でも、それが明らかになっていません(NEJMによれば64歳以上のアナフィラキシーはゼロ)。
確かめるデータが欲しいところです。
もし公表されていたら、どなたかご教示ください。