「只今、電話に出られません」

新型コロナの感染爆発を受けて、発熱外来が異常な人数になってきました。元々の担当医は私1人でしたが、急増に対応できずほとんどを他の医師にお願いするようになってしまいました。

新型コロナウイルスのPCR件数が鰻登りに増えても、その結果報告は今も私1人で行っています。もっとも、外来師長に手伝ってもらいながらの原則です。日曜休日は当直看護師にもお願いしています。
保健所に届ける関係もあり、PCR陽性者から電話をしていきます。まず今の症状を聞いて、次に年齢・併存症をカルテでチェックしながら現在の処方でよいか、別の処置が望ましいか、を考えながら患者に話していきます。保健所の指示に従うこと、何かあれば当院に連絡すること、を伝えて電話を切ります。陽性者への連絡が終わったところで、事務が用意した保健所への届出書をチェックし、「状態(軽症・中等症 I・中等症II・重症)」と「入院要否」の該当項目に丸を入れて送ってもらいます。カルテ病名の「COVID-19の疑い」の「疑い」を消し主病名に変えておくのも重要な業務です。併存症の漏れを追加する必要もあります。

続いてPCR陰性者への報告です。陰性者は主に外来師長から予め連絡してもらい、病状をカルテにメモしてもらいます。それを後で(時間を小まめに見つけて)、私がカルテで1人ずつチェックし、所見を記載し私からも電話を入れます。他の特定疾患を考えるべきだと判断した場合は、自分の外来枠や他科の医師の受診枠を予約してあげます。PCRを行う必要性のある病名となっているか、処方内容に合致した病名か、を各連絡の最後に必ずチェックします。

電話での報告で一番問題だと感じるのが、電話が繋がりにくいことです。
PCR検査のあと「必ず電話に出てください」と看護師に伝えてもらうのですが、1回で繋がらないことがたびたびあります。迷惑電話防止機能があるのか、見知らぬ番号には出ないと決めているのか、よく分かりません。折り返しでかかってくることもよくあります。いずれにしても、かなりの時間を要するのが悩みです。
電話連絡のもう1つの悩みは、思わぬクレームを受けることです。

その日は、夕方までに前日のPCR検査20人中15人分の結果が届き、上記の対応を済ませていました。夜8時頃、緊急入院と緊急検査のため病棟でバタバタしていると、前日のPCR残り5人分の結果が事務から届きました。1名が陽性、4名が陰性でした。
電話で聞くと、陽性のかたは幸い症状が軽く、型のごとくの注意を述べて結果報告は終わりました。保健所への届出書をチェックし、事務に送ってもらいました。
PCR陰性者への報告に移りました。
陰性者の最初は70歳代の男性でした。
カルテで病状を把握したあと、カルテにある携帯電話の番号にかけました。
10秒近く発信音が鳴り続きました。出てもらえません。
やがて、録音された女性の声で「只今、電話に出られません。恐れ入りますが、のちほどお掛け直し下さい。プープープー」。
やむを得ず切りました。

携帯電話の下に固定電話の番号がカルテに記載されていました。そこにかけてみました。
年配の女性が出ました。奥様であることを確認した上でPCRの結果を伝え、現在の症状を聞きました。微熱はあるも他に困った症状はないとのことでした。
「よかったですね、お大事にしてください」。
電話を切ってから、カルテに今の症状を記載しました。カルテ上の病名チェックも終わり、次の結果説明に移ろうとしたとき、事務当直から私のPHSに呼び出しがありました。先程の患者からだというので回してもらいました。

「なぜ電話を早く切るんだ!」。
いきなり、ものすごい剣幕です。
私に「だって」を言わせるスキを与えません。
「だからあんたの病院は評判が悪いんだよ。近所ではみんな言っているよ。不親切で、いいかげんだと。俺なんか15年も通ってるけど、ホントにひどいよ。医者はしょっちゅう変わるし、とんでもないよ。あんた何年病院にいるんだ!?」。
「2年余りです」。
「じゃあ言ってもしょうがねえかも知らんけど10年前に・・・」。
「すみません。職員の対応が至らないのは関係者に伝えておきます。次のかたがPCRの結果を待っています。どうぞお大事にしてください」。
「そうかい。分かった」。

そばで聞いていた病棟看護師が「たいへんですね」と慰めてくれました。
「いや、別に」。
次の結果報告を急ぎました。
夜9時、ようやく全員への連絡とカルテ記載、事後処理が終わりました。

後日、院内の関係者に電話の内容を話し、対応には注意するよう伝えました。
私への教訓は、自動音声が流れたとき家族にかけるのではなく、すぐにかけなおすのがよい、ということでした。
次回からそうしてみたところ、意外とうまく行きました。
あの男性に感謝です。