「認知症のブレインサイエンスとケア」再び

以前(2021/6/14ブログ)、「認知症のブレインサイエンスとケア」(かまくら春秋社、2021)を紹介しました。私が東京都老人総合研究所の臨床病理学部に勤めていたとき、臨床と研究のお手本を示してくださった松下 哲(さとる)先生の著書です。松下先生は諸家の研究成果をまとめ「アルツハイマー認知症の病因はヘルペスウイルス感染症である」という説を支持しています。従来の変性疾患説に敢然と異を唱える内容でした。説得力があり、予防もまた可能という期待が持てました。

その松下先生から、御自身の本の紹介文が届きました。
「ご無沙汰しております。ネットを検索して居たら、大兄のさいたま記念病院のブログに当たり、拙著『認知症のブレインサイエンスとケア』をご紹介頂いているのを知りました。遅くなりましたが、ここにお礼申し上げます」。
私のブログに触れてくださいました。
「この本に寄せる想いを綴った短文をその後、月刊誌『かまくら春秋』に載せました。文献の読みが浅かったのを補ったつもりです。ご一見頂けると幸いです。ここでアルツハイマー認知症について記した知見は、現在、専門家を含めて殆どの人が知らない状況にあります。一刻も早くこの知見が広まり、アルツハマー認知症が激減する時代が来ることを私は切に願っています」。

松下先生の切実な思いが読みとれます。かまくら春秋社のご厚意も頂戴しましたので転載させていただきます(下図)。

その後、松下先生からイギリス・オックスフォード大学のルース・イザーキ教授の総説*を教えていただきました。
*Vaccines 2021; 9:679. https://doi.org/10.3390/vaccines9060679
彼女によれば、単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)とアルツハイマー型認知症との関係には圧倒的なエビデンスがあります。また水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)と認知症との関係についてもエビデンスが出てきています。ヘルペス感染症に対し適切な治療(抗ウイルス薬)を受けなかった群では認知症の発症リスクが高まることは台湾からの発表**以来広く知られるようになりました。
**Tzeng NS et al. Neurotherapeutics 2018; 15:417. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5935641/pdf/13311_2018_Article_611.pdf

松下先生の「私の本」にもありますように、軽度認知症に対し抗ウイルス薬による治験がアメリカで進められています。その結果は2025年に分かるそうです。楽しみに待ちたいと思います。

私たちが今できることは、認知症のリスクを少しでも下げることです。
認知症の発症には生活習慣が関係することを以前指摘したとおりです(2019/7/19・2020/1/23ブログ)。この生活習慣はがんリスクを下げ、循環器・脳疾患の予防にも役立ちます。やってみる価値は十分あります。
認知症とヘルペスウイルスとの関係が明らかになった今、生活習慣の次が求められています。

抗ヘルペスウイルス薬がどれだけ使われているかが認知症発症リスクに関係しているのは明らかなようです。そうであれば、ヘルペス感染症(口唇ヘルペス、帯状疱疹)の症状が現れたとき、初発であれ再発であれ、速やかに十分量・十分な期間の抗ヘルペスウイルス薬の治療を受けることが肝要です。これが、今できるベストの認知症予防のように思われます。
ヘルペス感染症への抗ウイルス薬は保険診療で認められています。迷わず使うようにしたいものです。