がん教育研修会・シンポジウム

昨日、文部科学省主催の令和2年度がん教育研修会・シンポジウムがオンラインで開かれました。私を含め全国で約1300人の応募があったとのことです。
応募者は、資料にありますように、自治体教育委員会の指導主事、学校の教職員、がん教育に関心のある医師やがん患者等、です。大多数は学校関係者だったと思われます。
それほど学校では現在、がん教育に関心があります。その一番の理由は、新学習指導要領に「がん教育」が組み込まれたからです(2020/1/23ブログ参照)。「がん教育」が組み込まれたと言っても、中学校と高等学校(高校)の新学習指導要領に「がんについても取り扱うものとする」という一行足らずの文言が加わっただけです。

新学習指導要領は小学校では今年度(2020/4)から全面実施となりました。中学校は来年度(2021/4)から全面実施、高校は再来年度(2022/4)から年次進行での実施となります。
小学校の新学習指導要領に「がん」という言葉は出てきません。病気予防のための生活習慣を教えることになっています。中学校では保健体育の中で、がんの発生と予防、検診による早期発見が扱われます。高校の新学習指導要領の解説では、重要ながんの種類(肺がん・大腸がん・胃がん)、感染症(細菌・ウイルス)による発がん、がんの予防と治療、についても学ぶことになっています。

がん教育は、がんの知識を学ぶだけでなく、命の大切さを理解する意味もあります。広い意味での健康教育に相当します。

私自身、文部科学省がモデル事業として「がん教育」を導入した2014年から、がん教育に関わってきました。小学生、中学生、高校生に対し、それぞれの発達段階に応じて、がんの話をしてきました。小学校でのがんの授業については以前このブログでも書きました(2020/1/30、2020/2/27)。
私自身ががん教育に関わるのは、がんを知ることによって命の大切さを知り、さらに健康全般、がん以外の病気にも関心を持ってもらえる、ひいては一般の人の「参療」につながる(2019/6/28・2019/10/7ブログ)、と考えるからです。
今回のシンポジウムでコーディネータを務めた野津有司 筑波大学名誉教授が「がん教育を通して、他の病気や未知の健康課題にも対応可能な課題解決能力の育成も重要である」と強調されていました。

がん教育では、がんを闇雲に教えればよいというものではありません。
いくつかの配慮が必要です。
文部科学省は、配慮すべきこととして次の項目を挙げています。
1)小児がんの当事者がいる場合
2)家族にがん患者やがんで亡くなった人がいる場合
3)生活習慣が主な原因ではないがんの患者が身近にいる場合
4)がんに限らず重病・難病にかかった経験がある場合、そうした家族がいる場合
こうした場合に備え学校内で予めよく検討しておくことが必要です。

医療関係者(医師、看護師、助産師、保健師、薬剤師、リハビリ療法士、栄養士など)は今後、がん教育の外部講師として学校に招かれることが増えると思われます。学校と綿密な打ち合わせを行なった上でがん教育に関わっていただきたいと思います。がん体験者も外部講師として招かれることが多くなりました。上記の注意がやはり必要です。

医療関係者にしても、がん体験者にしても、児童・生徒への「教育」については素人です。何を話すべきか、何を話すべきではないか。何を見せるか、何は見せるべきではないか。一方的に話すのはダメ。ではどう話すか。児童・生徒を飽きさせない話法・手法とは何か。いろいろ難しい問題があります。こうした点でも学校関係者とよく話し合っていただきたいと思います。

以前も紹介しましたが(2020/1/31ブログ)、茨城県がん体験談スピーカーバンクというNPOがあります。約30名のがん体験者が登録し、がん教育・がん患者就労支援・医療者との協働による医療貢献などの活動に積極的に関わっています。メンバーは、県教育庁のがん教育担当者から体験談を話す際の注意点や要点を学び、模擬発表による練習を行って授業の質を高める努力をしています。そうした訓練を修了した上で学校に出向いてがん教育の外部講師を務めます。2019年度には小学校15校、中学校9校、高校5校でがん教育を実践しました。

医師が外部講師を務めるときも本来こうした学習・訓練を受けるのが望ましいと思います。しかし多忙なため、あるいは自己流を好むためか、事前の準備なしの場合が多いようです。
がん教育を早くに始めた茨城県では、医師ががん教育に関わる場合、学校医が外部講師になることが多くなっています。児童・生徒と接する機会が多いことから語りかけが上手、子供の「心」が分かる、というのが大きな理由です。
がん教育では最先端のがん医療に直接関わっている必要はありません。命の大切さを教える1つの方法としてがんを取り上げると考えれば、小児科医でも循環器内科医でもがん教育に関わることができます。むしろ、そのほうが良い場合もあります。もちろん、がんに関する資料やスライドは分かりやすいものを小学校用・中学校用・高校用それぞれ統一して使うようにします。
これは私が茨城県で経験してきたことです。