がん検診

今週から10月。
毎年10月は国が定めるがん検診月間です。
厚生労働省は10月になると「がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーン」を展開してきました。今年のポスターはまだ発表されていないようですが、昨年までのキャンペーンポスターにはイメージキャラクターが載っています(図1)。「雁(がん)と癌(がん)」をかけた1羽の鳥と、「検診(けんしん)と謙信(けんしん)」をかけた上杉謙信のマスコットとが組み合わさっているデザインです。

今年度はコロナ禍のためにがん検診受診者数が落ち込むことが懸念されています。
非常事態宣言が出されたとき、国はがん検診を一時見合わせました。しかし非常事態宣言が解除された5月末、がん検診開始を指示しています。
検診機関および検診協力医療機関はともに、感染対策を講じながら安全な検診事業を進めています。皆様には、検診の重要性をご理解いただき、ぜひ安心してがん検診を受けていただくようお願いいたします。

がん検診の目的は、がん死亡率を下げることです。検診により死亡率が下がると科学的に証明されているがんは、次の5つです。
肺がん・胃がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がん。
それ以外のがんでは、検診の有用性は今のところ証明されていません。

例えば前立腺がんでは、血中のPSAという腫瘍マーカーを用いて前立腺がんの早期発見・早期治療に役立てようとする動きがあります。ただし、もともと前立腺がんは予後良好です。無症状なのに腫瘍マーカーで早く見つけて治療しても、症状発現で前立腺がんが見つかった人よりがん生存率が高まるか、については決着がついていません。「なんとも言えない」、「ひょっとすると変わらない」というのが現状です。そもそも、PSAで前立腺がんが疑われても確定診断には経直腸生検という侵襲的な検査が必要です。それには入院のうえ麻酔が必要ですし、痛みや出血のリスクもあります。診断が確定し、手術またはホルモン剤、あるいは抗がん剤や放射線照射などで治療をすると、一部とはいえ、副作用(排尿障害、性機能障害、排便障害、下血、体調不良など)が生じる可能性があります。もし生存率に差がなければ、積極的に検診を勧めることはできないということになります。結論が出ていない今の段階では、国は前立腺がんの検診を勧めていません。

がん検診について、もうひとつ重要なことがあります。それは、がん検診を受ければ「必ず、早期でがんが見つかり、早期に治療でき、がんでは死なない」という意味ではないということです。あくまでも可能性の話であって、個々の人には必ずしも当てはまらない場合があることをご理解ください。「がんで死なない可能性が高まる」と考えればよいと思います。

繰り返しますが、がん検診を国も私たちもお願いするのは、今のところ、肺がん・胃がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がんの5つに対してです。「5つのがんだけか・・・」と思うかもしれませんが、この5つのがんだけでも日本の年間の罹患者数は約42万人(全がん罹患者数約98万人の約43% [2017年])です。5つのがんに絞っても早期発見・早期治療を目指す意味はあると考えます。

前任地の茨城県では例年10月に県主催の「がん講演会」を開いてきました。私は茨城県がん対策アドバイザーとして協力してきました。
今年は初めて「茨城県がんフォーラム2020」を開催します(図2)。これは、従来の医療従事者中心の「茨城がん学会」と一般県民向けの「がん講演会」とを合体させた形をとります。医療者だけでなく一般の人も一緒になってがんを考えようとする企画です。
ただし、コロナ禍のために現地集会は中止され、ウェブ開催(ビデオ配信)となりました。それでも開催の主旨はきちんと残すことになっています。
視聴できるのは、11月1〜3日の3日間です。無料ですが、事前登録が必要です。「茨城県がんフォーラム2020」で検索しますと、参加申込サイトに行けます(締切10月20日)。

このフォーラムで私は「主役はあなた〜参療とがん検診について〜」を約40分話す予定です。がん検診とともに、これからのがん診療は、医療者だけでなく患者や家族、一般のかたも一緒に参画すること(「参療」)が重要であることを強調するつもりです。講演のあと、がん患者の代表のかたと質疑応答を交えながら対談します。ビデオ撮りは茨城県庁で次の日曜日を予定しています。

「茨城県がんフォーラム2020」の目玉は、向井亜紀さんの講演「がんと向き合う〜いのちを輝かせるために〜」です。子宮頸がんで子宮全摘を受け、その後に代理出産で双子を授かる経験が語られると思います。
また、フォーラムではポスター発表もあります。医療者だけでなく、一般のかたもがんに関する発表ができることが特徴となっています(応募は締め切られました)。

フォーラムとは別に、私は先日、茨城県のインターネット動画サイト「いばキラTV」のインタビューを受けました(図3)。参療とがん検診について質問を受けましたのでお答えしました。放送は11月の毎週土・日、午後5:50-6:00とのことです。

このように今年もまた前任地でのがん検診・がん対策に関わっていますが、現在の仕事の中心となっている埼玉県の取り組みについてもご紹介します。私自身は関わっていませんが、ぜひ参考にしてください。

がん検診については埼玉県がユニークなポスターを出しています(図4)。
また、がん治療についての講演会も埼玉県内で開かれる予定です。例えば、埼玉県立がんセンターが中心となって、10月31日には「埼玉県民のための“がんの集い” in 鴻巣」(鴻巣市市民活動センター)(図5)、来年1月30日には「第45回埼玉県民のための“がんの集い”:テーマ『がん治療最前線〜ロボット支援下手術からゲノム医療まで〜』」(大宮ソニックシティ、ホール棟4階、国際会議室)(図6)が開かれます。どちらも現地開催です。マスク着用で参加されてはいかがでしょうか。私もどちらかに参加して勉強するつもりです。