オミクロンBA.5の特性

前回(2022/7/1ブログ)、オミクロンBA.5と思われる亜型を6/29の当院発熱外来で初めて確認したことを報告しました。その次のコロナ陽性者もBA.5と思われました。
ここ数日、ニュース等でBA.5の名称を見聞することが急に増えました。
本来、こうした情報は、マスコミからではなく日本の研究施設から取得すべきです。調べてみると国立感染症研究所が7/1付で次のような情報を発信していました*。
* https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11257-covid19-18.html
文中のVOCは「variant of concern(懸念される変異種)」、VOC-LUMは「VOC lineage under monitoring(監視中のVOC系統」のことです。後半に出てくるcasirivimab/imdevimabとtixagevimab/cilgavimabはいわゆる抗体カクテル薬です。前者は商品名ロナプリーブとして日本でも使用可能です(2021/8/4ブログ参照)。ただしオミクロンには無効で現在使われていません。後者はオミクロンに有効、BA.5にも有効との報告がありますが、日本では承認待ちの状態です。

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感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第18報)
国立感染症研究所
2022年7月1日9:00時点
(前略)
BA.4/BA.5系統について
• BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカで検出された。BA.4系統、BA.5系統が有する遺伝子変異はその多くがBA.2系統と共通しており、BA.2系統との違いは、BA.4/BA.5系統はスパイクタンパク質に69/70欠失、L452R、F486V変異を有していることである。また、BA.4系統の亜系統としてBA.4.1系統、BA.4.1.1~4系統があり、BA.5系統の亜系統としてBA.5.1~5.6系統があるが(Cov-lineages.org, 2022)、それぞれBA.4系統、BA.5系統との形質的な差については知見が得られていない。
• 2022年6月24日までに、BA.4系統は60カ国から13,827件、BA.5系統は63カ国から17,361件が報告されている。 いずれも当初は南アフリカからの検出が多くを占めたが、検出国は欧州を中心に変化している(Outbreak.info, 2022)。
• 米国疾病対策センター(CDC)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)はBA.4、BA.5系統を他のオミクロン株と同様にVOCに含めている(CDC. 2022, ECDC. 2022b)。WHOはVOCの中で、伝播性の増加の兆候や他のVOCと比較して優位性を疑うアミノ酸変異を有するものとして、VOC-LUMに分類している(WHO, 2022b)。英保健安全保障庁(UKHSA)は5月20日にBA.4、BA.5をともにvariantsからVOCへ区分変更している(UKHSA, 2022a)。
• 南アフリカ国内では2022年4月から5月にかけてBA.4系統、BA.5系統が占める割合が上昇し、BA.2系統からの置き換わりが進むと共に同時期の感染者数の増加が見られ、ポルトガルにおいても5月にBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進み、感染者数の増加が見られたことから、BA.5系統はBA.2系統に比較して12~13%の成長率の上昇が指摘されている(ECDC, 2022a)。また、英国でも5月以降BA.4系統、BA.5系統の検出割合が上昇しており、BA.4系統、BA2.12.1系統に比較して、BA.5系統が優位となる可能性が示唆されている(UKHSA, 2022a)。米国ではBA.2.12.1系統が優位であったが、6月以降BA.4系統、BA.5系統の占める割合が上昇しており、引き続きゲノムサーベイランスによる監視が行われている(CDC, 2022)。また、BA.4系統、BA.5系統はL452R変異を有しており、BA.2.12.1系統同様、L452の変異により免疫逃避の可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022)。一方で、現時点で既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(WHO, 2022a、UKHSA, 2022a)
• 新型コロナウイルスワクチン接種者及びオミクロン株感染者の血清を用いた抗原性評価では、BA.4系統、BA.5系統に対する抗体価はBA.1と比較して2.9倍から3.3倍、BA.2と比較して1.6倍から4.3倍の中和活性の低下が指摘されている(Hachmann NP. et al.. 2022、Wang, Q. at al.. 2022)。
• BA.2系統ウイルス株にオミクロン亜系統のスパイク遺伝子を置換した遺伝子組換えキメラウイルスを用いたハムスター感染実験の結果、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がBA.2系統のスパイクだけを持つウイルスよりも高くなったことを示した報告がある (Kimura I et al, 2022)。ただし、デルタ株等のオミクロン株以外の従来株との比較はなく、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がオミクロン株出現前のSARS-CoV-2に比べて高くなっているのかについては不明である。
• BA.4系統、BA.5系統の持つF486V変異は中和抗体の結合に影響を与える可能性が示唆されており、スパイクタンパク質の構造上casirivimab/imdevimabのcasirivimab、tixagevimab/cilgavimabのtixagevimabの効果に影響を与える可能性が示唆されている(UKHSA, 2022c)
• 6月24日時点で、BA.4系統及びBA.5系統は検疫及び国内で検出されており、国内の一部の地域ではBA.5の検出割合が上昇しているとの報告がある。既存のオミクロン株と比較して感染者増加の優位性が指摘されているため、今後国内でBA.5の占める割合が上昇する可能性があり、感染者数、重症者数の推移を注視すると共に、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、国内外のゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。」
(後略)
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まとめると、海外の状況を踏まえ、今後国内でBA.5の占める割合が上昇する可能性があるということです。

本当はもう少し詳しい情報が私には欲しいところです。例えば、BA.4とBA.5との違い、BA.2とBA.5との比率、その経時的変化、地域別差異、年齢別の罹患状態、重症度の違いなどです。
それでもこの簡単な情報の中に私が知りたかったことがいくつかあります。例えばBA.2と BA.5との遺伝子(アミノ酸配列)の違い。「69/70欠失、L452R、F486V変異」がBA.5にはあるとのことです。
69/70欠失はBA.1への回帰を意味することは前回述べました(2022/7/1ブログ)。「L452R変異」はデルタ株の特徴でした(2022/1/31ブログ)。「F486V変異」は初めて知る変異です。要するに、BA.1とデルタ株との特徴を併せ持ち、さらに新たな変異で我々を脅かす可能性があるということのようです。感染性は高まるとされますが、重症度については今のところ不明と言わざるを得ません。

新型コロナウイルス変異種のアミノ酸配列異常の最新の情報は、以前(2022/1/31ブログ)も紹介したViralZone*に載っています(下図)。
* https://viralzone.expasy.org/9556
この図を見ると変異種の変遷が分かります。
国立感染症研究所の報告と重なりますが、BA.5はBA.2の変異をほぼ全て受け継ぎ、さらにアルファ株とBA.1にあった69/70欠失とデルタ株にあったL452Rが加わり、BA.2や今までの株にはなかったF486Vが新たに出現していることになります。一方、BA.2にあったQ493Rが消失しています。Q493Rはオミクロン(BA.1)で初めて見られた変異です。
こうした変異はウイルスのスパイク(S)蛋白の中でも感染性に重要なスパイク表面のS1蛋白に見られます(2022/1/31ブログ)。もうひとつの成分であるS2蛋白(スパイクの茎の部分)はオミクロンになってから多彩な変化が現れ、BA.1・BA.2・BA.4/5を通して同じ変異が保たれています。

コロナウイルスの遺伝子(アミノ酸配列)の異同が感染性や病毒性にどれほど影響するのか、今後注視したいと思います。