バトル

昨日は朝からバトルでした。
押し寄せる発熱外来の対応のことではありません。指数関数的に増えるPCR陽性者への連絡のことでもありません。COVID中等症IIネーザルハイフロー例の数値に右往左往したというのでもありません。

ある新薬の使用法についてです。
ある公的なスジから当院の使用法は不適切だという厳しい指摘があったのです。外来を始めたばかりの私のもとに医事課職員が息急きって駆けつけました。
文書を示しながら、「この使用法は認めらないと言われました」と暗い表情で私に告げました。
「そんなバカな!」。
思わず声を荒げました。

どう考えてもおかしい。そうとしか言いようがありません。
新薬を使うにあたり、添付文書を隈なく読み、薬剤師に確認し、医事課と打ち合わせ、メーカーにも伺いを立て、周到な準備のもとに開始したのです。
そもそも、その公的なスジの言い分は、この新薬の目指すところに逆行した理屈から成っていました。
「国に聞いてみろ!」。
粗雑な言葉で命じました。
「わかりました」。
医事課職員は素直に従ってくれました。

しばらくして、説明に来ました。
さらに上の公的レベルに伺ったところ、判断は覆らなかったと沈痛な声で報告しました。
「国に聞いたら、各自治体に聞け、と言われて電話を切られました」。

もはや万事休す、かもしれません。
しかし、どう考えても相手の言い分は納得できません。
何のための新薬か。本質から明らかに外れている。どう考えてもおかしい。
さらに困ったことがありました。
実は、その新薬をその日の午後、2名の患者に使うことになっていました。

一瞬、頭の隅に、「長い物には巻かれろ」という悪魔の囁きが聞こえました。
患者に謝罪し「おかみがこう言っているので御免なさい」。
そう謝ろうかと思いました。
だが、その誘惑は振り切りました。
「なぜ従わなければならないのだ!?」。

個人的なコネのある「権威者」に電話を入れました。
「おかしいではないか!?」。
訴えました。しかし、無駄でした。
形勢は不利になっていきました。

午後、2名の患者が来ました。が、私は謝りませんでした。
これが患者のためになる、社会のためになる。何を迷うのか。
予定通り受け入れ、新薬による治療を今まで通りに開始しました。

夜7時前、治療のあとの経過観察が終わる頃になりました。
病棟に詰めていた私のPHSが突然、鳴りました。

医事課職員からでした。
声のトーンが今までと違って高くなっていました。
話すスピードも上がっていました。
「〇〇から当院の方法を認めると連絡がありました!」。

「〇〇とはどこの誰だ!?」。
敵を侮ってはいけません。
本当に確かなスジか?
今までの「おかみ」のさらに上位にあるのか?
悲しいかな、世俗の事情に関心が移り、矢継ぎ早に質問をしました。

間違いない。
確信しました。
ちょうど、患者2名が帰るところでした。

さりげなく手を振って回復を願いました。
担当した若い女性看護師が距離を取って会釈と丁寧なお辞儀で送り出しました。
事務員が様々な配慮をしてエレベータと通路の確保をしてくれました。

バトルの話を病棟では一切しないままドラマの幕が下りました。

何のバトルだったかって?
抗体カクテルが日帰り入院でなぜ使えないのか、でした。