バルセロナオリンピック1992の思い出

アコーデオンカーテンで仕切られた部屋の向こうで2人の研修医が息抜きの会話をしていました。
その年の春に医師となり外科に入局してきた2人です。
「おい、H、今オリンピックをやっているんだって」。
「えっ、C、本当?!」。
「さっき、看護婦が言っていた・・・」。
「どこでやってるの?」。
「どこかなあ・・・」。

「バルセロナだよ」。
隣から声を掛けようとしました。が、やめました。
医師になり外科に入って3ヶ月余り。2人とも学生時代は部活に精を出し、最終学年は医師国家試験の勉強に追われ、医師になった途端に外科の下積みの仕事に忙殺されています。
「そんなことも知らないのか」。
この言い草はないだろうと思いました。

あれから29年。H先生もC先生も、今は独立して地域医療に貢献しています。
オリンピックが開かれていることすら知らずに医療に没頭していた、没頭させられていた若き医師たちがかつていました。今はいないことを願っています。