パンデミックの中でのオンライン学会

なぜ、第33回日本小切開・鏡視外科学会がほぼ予定通り、2020年7月11日(土)・12日(日)オンラインで開催されたのか。それは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のさなかでこそ開く意味があったからです。外科手術の観点から2つの意味がありました。

1つは、今年3月末〜4月上旬、COVID-19がパンデミックになっていくとき、医療体制はコロナ対応に変わっていきました。重症のCOVID-19患者を診るには多くの人手を要します。医師や看護師から成るCOVIDチームが次々設置されていきました。そうした専属スタッフは病院内の各部署から集められました。当然、COVD-19以外の疾患への対応は少なくせざるを得ませんでした。ハイケア治療室や集中治療室の多くは、COVID-19の重症者用に転換されていきました。すると、高難度手術の術後管理のためのハイケアや集中治療が縮小されました。こうして外科手術の自粛や制限に繋がっていったのです。
しかしどのような状況であれ、外科手術の必要な患者は常に、しかも沢山おります。多くの外科医がパンデミックを無視できなくなりました。

もう1つは、手術室が感染クラスターになり得ることです。今年4月、日本外科学会は「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言」を発表しました(初版4月1日、改訂版4月10日)。このうち「3. 患者および術式選択について」で、「腹腔鏡手術にあたっては、エアロゾル発生の原因となることを認識して、高精度フィルターおよび排ガス装置などの条件を必ず確認したうえで実施する」とされました。
感染者の血液や体液中にウイルスが存在することは他のウイルス(例えばエイズウイルス、子宮頸がんのヒトパピローマウイルス)で証明されており、接触ないし飛沫で医療スタッフへの感染が報告されています。新型コロナウイルスでもそうであろうと思われています。手術では外科医や器械出しの看護師だけでなく、麻酔医も血液や体液の暴露を受けます。さらに、電気メスや超音波凝固装置により煙やミスト(霧)が発生します。気腹式腹腔鏡手術のように腹腔内を陽圧にする手術では、器具のすき間や穿刺の穴から煙やミスト、あるいは目に見えないエアロゾルが手術室内に漏れてきます。そこにウイルスが存在すると手術スタッフの感染リスクが高まるというわけです。そのため外科学会は腹腔鏡手術での高精度フィルターおよび排ガス装置の使用を勧告したのです。4月の勧告のあと、さらなる知見が蓄積されているはずです。7月の学会ではその後の経験を踏まえ、最新情報を会員みんなで共有しようということになりました。

「新型コロナウイルス感染症に対する外科の取組み」と題して北海道大学消化器外科Iの武富紹信教授が外科学会のその後の考え方を述べました。
「現時点では、手術で発生する煙やミスト、エアロゾルには新型コロナウイルスが含まれるという前提で対応策を講じることが望ましい」、「新型コロナウイルスに親和性のあるACE2受容体は、小腸・腎臓・心臓・甲状腺などに多く存在し、血液・骨髄・脳・筋肉などには比較的少ない。肺・大腸・肝臓・膀胱はその中間である」、「いずれの手術においてもスタッフへの感染リスクは否定できない」、「大切開手術と小切開手術とで感染リスクに差があるというエビデンスはない」、「気管チューブの排気路には適切なフィルターを付けることが強く勧められる」、「電気メスや超音波凝固切開装置から発生する煙やミストは可能な限り吸引しながら手術を進める必要がある」、「大切開手術での排煙管理は小切開手術よりも難しい」、「COVID-19陽性者あるいはその疑い患者の内視鏡検査や気管支鏡検査ではフル装備の防護具を着用する」が主な内容でした。

パンデミック渦中手術の1つの問題は、COVID-19の無症状患者に遭遇することです。感染を併発していると、手術死亡率は約24%に上ることが国際研究で示されています。術前の対応について武富教授は、自施設での経験を踏まえ、以下の具体策を示しました。まず、詳細な問診票を術前患者全員に配布してリスク判定に用いる。手術の数日前にPCR検査を唾液で行う。発熱や呼吸器症状があっても手術を行いたい場合は肺CTで肺炎のないことを確認する。肺炎があれば原則として手術を延期する。ただし最終判断は主治医および診療科グループが行う。以上を総括して、1)医療資源の適正利用、2)院内感染の防止、3)手術成績の悪化防止の3つを強調していました。同感だと思いました。

コロナ関連以外にも勉強になる発表がたくさんありました。他領域の手技を知ることができるのが本学会の強みです。呼吸器外科、甲状腺外科、整形外科、婦人科の小切開手術が特に興味あるものでした。

学会の最後を飾ったのは、加賀基知三会長率いるバンドによる「Stand by me」のリモート演奏&歌唱動画でした。オンライン学会にふさわしいカッコウ良さに思わず拍手喝采!