日本リハビリテーション医学会誌の最新号を手にとって目を見張りました。特集が「不登校のリハビリテーション医療・支援」だったからです。不登校の問題をリハビリテーション医学が取り上げるとは、私の想像をはるかに超えていました。

それまでの私の頭の中はこうでした。
これからの医療を考えるとき、市民・国民への医療教育が大事だと思ってきたことは以前書きました。茨城の県立病院長を降りてすぐにお願いしたのは、市の教育委員になることでした。教育の現場を知って医療教育の道を探るためでもありました。
幸い、その職務に就くことができました。今年3月まで4年近く務めました。

医療教育の可能性に一定の成果は見られましたが、何よりも勉強になったのは教育の現場をじかに見ることができたことです。
医療の世界にどっぷり浸かってきた私は、いかに狭い世界で過ごしてきたかを身に染みて感じました。特に不登校の問題では、自分の経験が全く役に立たないと痛切に感じました。従来の教育のプロ、すなわち校長、教頭、担任、学校カウンセラーなど学校関係者はすでにいろいろな模索をしていました。家庭訪問を繰り返し、不登校児童・生徒のための適応指導教室の運営に関わるなど実に多くの努力を重ねていました。
それでも不登校児童・生徒の数は減りません。むしろ増加の傾向にありました。家庭の貧困と深く関わっている例もありました。
教育委員会としてどうしたらよいか。よく議論しました。
他の自治体の好事例(例えば埼玉県入間市の取り組み)を参考に私が出した結論は、母親の妊娠のときから行政が深く関わること、子どもは誕生したときから親だけでなく、行政も保健師も地区の人たちも小児科医も、様々な形で濃厚に関係して見守り続けること、これしかないというものでした。地域の皆で子供を育てる社会の仕組みが必須だと思いました。そう提案しても、教員も保健師も地区の人たちも小児科医も皆、今のことで手一杯です。もっと人が欲しい、もっとお金が必要、という話で終わってしまいました。もう他に手はない、と思っていました。

そこに、「不登校のリハビリテーション医療・支援」です。不登校問題は上述のように教育関係者が対応し、医療機関の関わりは少なかったと思います。本特集では、リハビリテーション科医のできること、すなわち、運動障害、発達障害、ギフテッド、慢性疲労症候群、自閉症スペクトラムなどへの対応・考え方が専門家から述べられています。
一般のリハビリテーション科医がどこまで関わればよいのか疑問がないわけではありませんが、ともかくこういう特集を組むこと自体、驚きです。

10年ほど前に「がんリハビリテーション(がんリハ)」を初めて知ったときの驚きにも似ています。リハビリテーション医学はここまで考えるのか!凄い!という驚きです。