原因と対策

当院の内科一般病棟で先々週と先週、想定外のコロナ陽性者が計4名発生しました(患者1名、職員3名)。いずれも無症状ないし軽症ですんでいます。しかし、原因を明らかにする必要があります。

患者1名はPCR Ct値(2022/1/24ブログ参照)からみて当院入院中に感染したと思われます。職員3名についても家族調査等から院内での感染と思われます。職員同士の感染は、時期と接触状況からみて否定的です。
当該病棟はコロナ患者の入院を受け入れています。
院内感染との関連が当然疑われます。

病棟全体をコロナ専用にすることは、人員と設備の関係で難しく、病棟の端の個室エリアにコロナ患者を入院させてきました。この運用で2年近く県からの要請に応え、多くのコロナ患者の入院治療を行ってきました。コロナ患者の診療・看護に当たった者がPPE(個人防護具)を脱ぎ手指消毒後に同じ病棟のコロナ以外の患者の診療・看護にあたることに最初は不安がありました。しかし、院内感染は起きませんでした。しっかりした感染防護対策をとれば問題ないと確信するようになりました。

ではなぜ今回の院内感染が起きたのでしょうか。
今年1月以降、新型コロナの様相が変わりました。同じコロナでもオミクロンは従来の臨床像とかなり異なっています。一般の人では症状は軽いのに、高齢者とくに超高齢者、中でも施設に入所していた人たちが罹ると、状態は一気に悪化します。肺炎がある場合、多くは誤嚥性肺炎を合併していました。
したがって、隔離が解除されてもすぐに退院できず、入院が延びます。隔離解除時に食事(主にペーストハーフ食、1200kcal/日)を5割以上食べられる人はほとんどいません。食べられても1口、2口という患者が病棟の一般病床の多くを占めるようになりました。

「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き」によれば、軽症〜中等症患者の退院は「発症10日以上かつ症状軽快3日以上」で可能とされます。宿泊療養等の解除基準も同様の扱いです。
退院・解除基準を満たしていても、鼻咽頭ぬぐい液のPCRが依然として陽性になることは周知の事実です。当院では発症60日後でも陽性だった例が過去にあります。したがって「診療の手引き」の注釈に、退院・解除となっても3密は避けること、咳が長引くときはマスクをすることという生活指導が書かれています。

この「診療の手引き」には「隔離解除」の基準がありません。多くの病院は、入院患者の隔離解除は退院基準・解除基準に準じていると思われます。当院もそうしていました。
しかし、「発症10日以上かつ症状軽快3日以上」という一律の基準に対して我々は疑問を持つようになりました。入院時にCt値がかなり低く(=ウイルス量がかなり多く)「発症10日以上かつ症状軽快3日以上」だけでは危険ではないか(=感染性が高い)と思う例が少なからずあったからです。そうした例では再度 PCRを行い、感染性がほぼ消失するとされるCt値≧30の見込みを立ててから隔離を解除してきました。中には発症2週間を過ぎ症状は軽快していてもCt値20という例もありました。こうした例ではさらに隔離期間を延長しました。

隔離の延長は高齢者のADL(日常生活動作)を下げます。一方、解除を早めれば院内の感染リスクが高まります。そのため慎重に解除時期を決めてきたつもりです。隔離を解除すると、個室から一般の大部屋に移ってもらいました。
大部屋では、こまめに声掛けをして覚醒を促してきました。時間をかけて食べさせました。それでも、覚醒の悪い人、食事の摂れない人が続出しました。無理に食べさせると誤嚥します。嚥下機能試験(VF)の結果を参考に摂食を進めますが、誤嚥防止のために咽頭・気管に残った食物を吸引しなければならない例もあります。誤嚥性肺炎の合併で痰が多いと吸痰操作が必要になる例もあります。

こうしたなかで院内感染が発生しました。その原因をまとめると次のようになります。
「隔離が解除されてもウイルスはそれなりに咽頭や気管に残っている。オミクロンになってから、誤嚥しやすい患者、誤嚥性肺炎を起こしている患者が急増した。吸引操作の回数も圧倒的に多くなった。これが職員や同室者への被曝に繋がったのではないか」。

あくまでも仮説です。実証には大規模かつ精細な検証が必要です。しかし、対策は至急とらなければなりません。
今週初め、病棟看護師の協力を得て隔離解除後の対応を変更しました。隔離解除後の患者は同じ部屋に集めること、感染歴のない患者を同室させないこと、吸引操作では隔離中と同じくN-95マスク・フェースシールド等のPPEを着用すること、窓を開け換気を徹底すること、としました。

今日(3/26)現在、新たな陽性者は発生していません。一昨日からのPCR検査で、自宅待機中を除く当該病棟の職員全員の陰性を確認しました。来週こそ当該病棟への新規入院の受け入れができると期待しています。