夢の手術

日本外科学会第122回定期学術集会「私の手術手技」(標準ビデオシリーズ)を見続けたためか、連休中は手術の夢をよく見ました。

多くは研修医時代あるいは外科医駆け出しの頃の手術でした。後年多かった内視鏡手術の場面は出てきません。大切開の開腹・開胸手術ばかりでした。
「永井、ここを引け」。今は亡きK先生。
「永井君、こういう時はこうするんだよ」。優しかったI先生。やはり今はいません。
あの声、あの手つき、あの息づかい。
目が覚めてからも余韻が残りました。再び一緒に手術ができたことを嬉しく思いました。

夢ですからとんでもない器械も出てきます。
どう使ってよいか戸惑っていると、
「こう外して、こう押して、こう引っ張るんだ」。ある先輩の厳しい叱責です。
ところが引っ張った腸管が見事に裂けてしまいました。
「大丈夫ですか・・・」。恐る恐る聞くと、
「大丈夫」。
疑問が解けぬまま目を覚ましました。

連休最後の夜は、夢の手術をすることができました。
自分が自分の病気に対して手術を実施したのです。
昔、自分で自分の手術ができればと夢想していたのは確かです。その念願が遂に叶ったのです。

場面はいきなり上腹部横切開後の肝門部でした。
詳細はわかりませんが、私は過去に総肝管と空腸との吻合を受けていました。その再手術です。術者も、患者も、私です。年代は、手つきと「場馴れ」から、外科医になってだいぶ経った後年のようです。
術者の私は、患者の私の総肝管空腸吻合部を最初にハサミでスパッと切り離しました。総肝管の内腔が現れました。空っぽです。しかしケリー鉗子を総肝管の中から右肝管のほうに突っ込むと硬い物に当たりました。鉗子を思いきり開き、固い物を掴んで引っ張り出しました。巨大な結石です。取り出すと同時に奥から白色の膿汁がどっと出てきました。左肝管でも同様に結石除去をしました。やはり奥から大量の膿汁が出てきました。
これで処置は終了。次は総肝管と空腸との再吻合です。縫合にかかり始めた直後、背後から若い男の声が聞こえました。
「このまま縫うのですか。再発しませんか」。
縫合の手が止まりました。
「緊急手術だからこれでいい。それに、俺が俺の手術をしているのだ」。
「文句があるか」と言おうとしましたが、大人げないので胸の内に収めました。
吻合を再開してまもなく目が覚めました。

爽やかな目覚めでした。
自分が自分の病気の手術を自分の思い通りにできたのですから。
夢の手術の完遂でした。
それにしても、背後から水をさしたあの若者は誰だろうか。振り向かなかったので顔は分かりません。でも、あの声は・・・。
あっ、若いときの自分!