子育て外科医はそんなに悪でしょうか

20年以上前、全国紙のA新聞に「外科医は出産ダメ?」という匿名の投書が載りました。
ある女子医学生が外科医になろうとして外科の医局の説明会に行った時のことを書いています。「女で外科に来るなんて患者さんに失礼だと思わないか」と言われ、挙句に「子どもは産みません」とまで言ってしまった、というのです。

私は当時、ある大学の外科教授でした。この投書を読み、翌日、その新聞社に抗議の手紙を出しました。
一部を再掲します。

「私はX大学外科学講座の主任教授を務めている者です。 当地の2000年○月○日付のA新聞に載りました「外科医は出産ダメ?」について、私見を述べさせて頂きます。 これは東京都の女子医学生からの投書ですが、外科採用の説明会で先輩から「女で外科にくるなんて、患者さんに失礼だと思わないか」と言われたとのことです。そして、悲しくも「子どもは産みません」と言ってしまったとのことです。投書の中では、「外科を志すためには『結婚はしません』、『子どもは一生いりません』と誓うことを、医者の世界では、やる気のある証拠と考えている人が多い」、とも書かれてあります。 私は、「女で外科にくるなんて、患者さんに失礼だと思わないか」という意見を吐く外科医のいることに驚きました。また、こうした意見に従ってしまう女子医学生がいることには、さらに驚きました。 この話はもちろん実話だとは思いますが、にわかには信じ難いところがあります。「外科を志すためには『結婚はしません』、『子どもは一生いりません』と誓うことを、医者の世界では、やる気のある証拠と考えている人が多い」というのも、私の周囲、種々の大学の先輩、同僚の日々の意見を聞きましても、本当とは思えません。 女性が外科医になることは確かに厳しいという風潮が存在していたことは否定しません。しかし、いまや新規医師の3割が女性であること、今後さらに女性医師が増えること、外科医の仕事は減るどころか増えている現状を考えますと、投書者の先輩の意見は、単なる暴論に過ぎないと思います。
投書をよく読みますと、こういう暴論を確実に言ったのは、先輩一人だけのように思います。「医者の世界では云々」は、投書者の思い過ごしもあるのではないでしょうか。どんな世界にも変な暴論を吐く人は少数ながらいます。これをもって、多数の意見とされてしまうのは、納得できません。 こうした投書を掲載するにあたっては、現在の外科指導者が上記のような「暴論」を本当に持っているのかどうか、是非調査して頂きたいと思います。 投書は医学界の一面を少しは伝えているのかもしれませんが、これによって受ける外科のイメージは著しく損なわれてしまった気がしてなりません」。

A新聞からは何の音沙汰もありませんでした。
「こんな大学などあり得ないよ」。私は医局で息巻いていました。

それから20年以上の年月が過ぎました。
よい時代になったはずです。
ところが、です。
似た話が残っていることを最近知りました。

2021/3/15のブログで「女性目線の考え方」を紹介しました。このブログを読まれたある女性外科医から突然お手紙を頂戴しました。
「女性医師関連のことを2008年からやってきたが、本当に叩かれることが多かった。自分が発信してきたことをそのまま受け取ってもらったことが嬉しくて涙が出た。そして自分がやっていることは間違っていないと励みになった」という内容でした。
その後のメールのやりとりで、ご自身が「逆境をプラスに変える方法」という動画*を公開されていることを知りました。許可をいただきましたので、皆さんもぜひご覧になってください。
*https://youtu.be/0eL6s7qDxwA
力強い言葉が語られています。

「子育て外科医はそんなに悪でしょうか」、「目の前の人たちに否定されたからと言って自分の夢をあきらめてよいものか」、「もしかしたら、可能性は無限大にあるのではないか。だって誰もやってないのだから」、「少しずつ、女性目線で仕事をし続ける異質な私を受け入れてくれる変化を感じます」、「もし厳しい環境に遭遇して挫折しても、取り返せるのです。少しの発想の転換や自分を信じてコツコツ努力することで、違う未来が待っています。つらいことがあっても、ピンチの先にはチャンスがあると信じて、諦めずに頑張っていきましょう」、「人間は負けたら終わりなのではない。やめたら終わりなのだ」。