専門医の極致

私自身は専門医と総合医の融合を目指してきました。若い医師にもそれを説いてきたつもりです。どれほど専門的な知識と手技を有していても、総合的な医師としての基本が不可欠だと考えるからです。
一方では、理想を目指しながら専門医としても総合医としても一定の水準には達していない、達しなかったという無念さがあります。人間ですのでやむを得ないと自らを慰めます。

しかし世の中には凄い人はいます。
先日、大宮医師会外科医会・皮膚科医会合同学術講演会で「小児の形成外科〜皮膚外科を中心にして〜」を拝聴しました。演者は埼玉県立小児医療センター形成外科・副病院長の渡邊彰二先生。
小児の形成外科的処置を要する皮膚疾患(母斑、血管腫、先天異常、良性腫瘍、ケロイド、外傷など)について多くのスライドを提示しながら説明されました。
皮膚病変は外見に関係します。身体だけでなく心にも影響します。親の葛藤もあります。治療の失敗もあったようです。失敗のあとどう工夫をしたかが大切です。
飾らない語りの中に鮮烈な言葉が散りばめられていました。いくつかを御紹介します。
「術者のスキルと経験が露骨に結果を左右する」、
「長期間みなければものは言えない」、
「親と一緒に悩んだ末に切除した」、
「傷が長くて目立つ例を見て『やらなきゃよかった』」と思ってから『Shorter is better(傷は短いほど良い)』となった」、
「『やりすぎたかな』と思ったが患児には感謝された」、
「術者の趣味に陥ってはいけない」、
「血管腫では潰瘍のリスクが高ければベータ遮断薬を内服させる。潰瘍化してからでは遅い」、
「(口唇血管腫の潰瘍化で哺乳障害となった乳児は)苛立った父親に殴られて死亡した」。

講演の最後のまとめに次の言葉がありました。
「患児から教えてもらうことは多い。10年以上経過観察して自分なりの正解に至ることも少なくない」。

本物の専門医は真の総合医でもあることを再認識させられました。