川崎富作先生のこと

先週、川崎富作先生の訃報が報じられました。
川崎先生は乳幼児に多い川崎病の発見者として有名です。私自身は川崎病の患者を診たことがありません。心臓の冠動脈に動脈瘤を生じさせ、閉塞を起こすこともあることから、小児科医でなくても心臓外科医なら診療の機会があったかもしれません。私が胸部外科の研修をした1973-1974年に川崎病という病名を聞くことはありませんでした。
調べてみると、川崎病の最初の論文は1967年の日本アレルギー学会誌「アレルギー」に報告されました。50例の詳細を44ページの長大な論文で発表しています。日本で「川崎病」という病名が出たのが1968年、WHOが「Kawasaki disease」を公認したのが1978年とのことです。

川崎病の患者を診療することはありませんでしたが、徐々に私の周りで「子どもが川崎病だ」という人に出会うようになりました。やがて組織の責任者になったとき、職員の中に川崎病の子どもがいるという話が伝わってきました。原因不明の熱病、特有の皮膚粘膜症状、ときに心臓に生じる重大な合併症、などが思いつくものの何のアドバイスもできず、残念に思っていました。

2002年2月、医師仲間のある会に川崎富作先生が招かれ、初めてご挨拶をさせていただきました。先生は1948年千葉医専(現千葉大学医学部)を卒業され、1年後に日赤中央病院(現日赤医療センター)の小児科に赴任、以来40年間、同じ職場で定年まで勤められたとのことです。日常診療の中で川崎病を発見され、その啓発と研究に努められ、生涯を川崎病に捧げてこられました。
その後、何度か同じ会で川崎先生のお話を伺う機会に恵まれました。奥様がご一緒されたこともあります。印象に残っているのは、東大閥であった日赤中央病院の中で「川崎病」の理解がなかなか得られなかったというお話、そして、臨床ではどこにいても必ず新しい発見があるのだというお話でした。

門外漢の私も川崎病に興味を持つようになりました。
最近、新型コロナウイルス感染症の合併症として「川崎病類似症状」が生じるという報告が海外からもたらされました。川崎病は感染症が原因らしいということは以前から言われていますが、詳細な病因については依然不明のはずです。
ひょっとするとコロナウイルスが・・・と思ってしまいましたが、5月7日に日本川崎病学会から「川崎病とCOVID-19に関する報道について」という声明が出されました。
今年2月〜4月の川崎病の発生状況は平年並みか減少していること、小児のCOVID-19患者はいずれも軽症で川崎病合併例は確認されていないこと、アジア各国でも川崎病とCOVID-19との合併は1例もないことなどから、現時点では川崎病とCOVID-19との関係を積極的に示唆する情報は得られていないとのことです。今後とも注視していくが、現段階では一般の方に過度の不安を与えることのないよう、そして、川崎病の診断基準を満たした場合には適切な治療を遅滞なく開始するようお願いする、としています。

川崎病は少子化の時代にあっても患者数は増加しています。
川崎富作先生の遺志が次の時代に受け継がれ、病因と予防法が一刻も早く確立されることを願っています。

ご冥福をお祈りします。