循環器も「主役はあなた」

今週火曜日(11/2)の夜、循環器地域連携講演会を聴講しました。
自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・循環器内科教授の藤田英雄先生による特別講演「循環器領域 治療UP TO DATE」と、地域医療機関の院長・副院長を交えたディスカッション「地域連携について」の2部構成でした(当院の西永副院長がディスカッサントとして参加)。

今回の循環器地域連携講演会では特に藤田先生の新しい循環器治療薬のレビューが参考になりました。最近、心不全の治療薬は大きく変わりました。ベータブロッカー(BB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の4剤投与によって心不全(ただし左室駆出率の低下した心不全=HFrEF [ヘフレフ])の治療成績が向上するとのことでした。この4剤のことを「ファンタスティック・フォー」と呼ぶそうです 。
循環器専門医にとってこうした話は当たり前のようですが、私にとっては初耳でした。講演会後半のディスカッションでは、循環器の新しい知識を一般の医師にどう伝えていくかが話題になっていました。やはり、専門医から一般の医師に徐々に浸透させていく必要がある、そのためには地域連携が重要だ、ということになりました。

藤田先生の講演でもうひとつ興味があったのは、「循環器病対策基本法」・「循環器病対策推進基本計画」の話です。「がん対策基本法」・「がん対策推進基本計画」に遅れること12年、脳卒中・心臓病などの循環器病対策の基本法が2018年暮に成立、2019年暮に施行となり、これに伴い推進基本計画が国レベルでスタートしました。各都道府県も独自の循環器病対策推進基本計画を立てています。こうした流れを受け、地元の大宮医師会は「さいたま市大宮地区における心不全患者管理のための病病・病診連携システム」をいち早く構築しました。その1つとして「大宮心不全共本」という地域連携パスを作成しました。特徴的なのは心不全ポイント自己管理用紙です。一定の体重以上になれば3 点、脈拍が120回/分以上なら4点、安静時の息切れ・息苦しさがあれば5点、むくみや食欲低下などの自覚症状の悪化があれば1点、という点数付けをします。自分で点数を合計し、5点以上なら急性期病院を受診、急に苦しくなれば救急車を要請するという目安にします。
自己管理がポイントです。患者自身が自分の状態を「医学評価」する仕組みです。患者から「自分は3点ですね」と言われるようになったと藤田先生は嬉しそうに報告していました。

実は、この種の心不全ポイント自己管理用紙は全国各地に広がっています。
医師が患者に診療方針を伝えるパターナリズム(父権主義)を脱し、患者自身で自分の病態を知るシステムが確立されつつあることを意味します。
これは、10年以上早く始まった国民的ながん対策が目指してきた道です。がん対策の講演で私は「主役はあなた」を主張してきました(2020/9/27、2021/10/25のブログ参照)。

より良い医療のために多くの医療関係者が目指してきたのは医療提供体制の充実でした。救急しかり、事故防止しかり、拠点病院作りしかり。医療者の働き方改革も医療者に偏った視点でした。しかし、これには限界があると私はやがて気づくようになりました。欠けていたのは、受療側の体制整備です。受療者教育というと上から目線のように聞こえますが、上だ下だと区別しないのが医療そのものの在り方です。その意味で、循環器も「主役はあなた」の方向になっているのを嬉しく感じました。将来的には、義務教育の中でがんも循環器病も、その他の疾患もぜひ教えて欲しいと願うのです(2019/6/27、2019/6/28のブログ参照)。

帰宅後に原著を読むことができました。「ファンタスティック・フォー」は本文では”fantastic four”と表記され引用符がついていました。出典が別にあることを示唆しますので調べたところ、4人組が活躍するアメリカの同名のコミックから来た言葉ではないかと思われました。