昨夜、第3回大宮心不全連携の会に出席しました。特別講演はJA長野厚生連佐久医療総合病院佐久医療センター副院長兼循環器内科部長の矢崎善一先生による「地域拠点病院の挑戦:佐久病院グループの取り組み」でした。

心不全パンデミックと呼ばれるほど蔓延し、地域医療の大きな問題となっている慢性心不全の現状と対策のあり方を示してくださいました。パンデミックとは、本来インフルエンザなどの感染症の全国規模あるいは世界規模での大流行を意味します。それが心不全で使われるということは、個々の医療機関だけでは対応できないほど大規模に広がり深刻な状況にあることを意味します。
心不全の治療成績は、薬剤や器械的補助療法の進歩によってずいぶん良くなってきましたが、心臓機能は徐々に低下し、最終的には如何ともし難い状況になります。慢性心不全は急性増悪しても入院治療を受けると軽快しますが、退院するとすぐまた悪化し、また入院する、ということを繰り返します。心不全患者が多くのベッドを塞ぎ、本来助けなければならない心筋梗塞などの急性期循環器疾患の治療に支障が出ているということです。

対策として、心不全パス、多職種連携、外来治療強化、心不全専門外来、病診・病病連携、在宅医療推進などが挙げられていました。そして、何よりも大切なのは終末期医療だと言われました。すなわち、緩和ケアだと言うのです。当然、モルヒネの使い方も重要になります。
しかし、今までの循環器専門医はモルヒネの使い方を勉強することはほとんどありませんでした。そのため、看護師、薬剤師などの多職種の関わりが鍵になります。がんの緩和ケア医が心不全に関わるようになってきたとのことです。一方、若い医師はがん診療の中で緩和ケアを学ぶ機会があり、心不全の緩和ケアにも熱心に取り組むようになっているという話もありました。
がん患者の在宅看取りにたずさわる関係者が、心不全の在宅診療にも関わるようになりました。
多職種連携、外来治療推進、専門外来、病診・病病連携、在宅医療推進は、がんの分野では、ずいぶん前から言われており、実行してきました。心不全でも当然だと思います。

昔のことですが、大学病院でがんの緩和ケアの在り方に関する委員会が立ち上がりました。委員長は副院長ということで循環器内科教授が務めました。委員長就任の第一声は、「10年以上がん患者を診たことがない」でした。委員から溜め息が出ました。
この数十年前のがん緩和ケアの議論と同様のことが、心不全パンデミックの時代に循環器領域でも真剣に行われているのは、皮肉とは言え、当然の帰結のように思います。

たまたま昨日の日本経済新聞に、日本腫瘍循環器学会が抗がん剤による心臓の副作用の調査に乗り出すことが報じられていました。
心臓には心房粘液腫や横紋筋肉腫がごく稀に生じることはあっても、転移性心臓腫瘍で困ったという話は聞いたことがありません。がんと循環器とは無縁の関係だと思っていました。したがって、腫瘍循環器という学会があること自体驚きでした。実に新鮮に感じ、好ましく思いました。

心不全と緩和ケアの講演を聞きながら、医療とは結局トータルケアだ、とあらためて感じました。