患者数/専門医数

消化器外科を専門としてきたのに、今はそれ以外の領域の患者を多く診るようになりました。総合的な医療を目指す者として勉強になることを喜ぶと同時に、これでよいのかという悩みが日々あります。

本来であればその分野の専門医が診るのがベストでしょう。専門医でなくても当該領域の学会に所属する医師に診てもらうのが望ましいように思えます。
前回紹介した慢性頭痛では、頭痛専門医に一度は診てもらうことを講演会の演者は勧めていました。
では頭痛専門医は全国あるいは地域にどれほどいるでしょうか。
日本頭痛学会の認定専門医のリストが学会ホームページに載っています。
頭痛専門医は全国に900人余、さいたま市には13人います。前回述べたように、さいたま市(人口133.5万人)の片頭痛患者は推定8万人とされます。頭痛専門医1人当たりの片頭痛患者は6154人となります。さいたま市はまだいいほうです。頭痛専門医1人当たりの片頭痛患者数(推定)は、埼玉県全体(人口734.5万人、専門医54人)で8151人、前任地の茨城県(人口286.7万人、専門医21人)で8181人となります。片頭痛患者を全て頭痛専門医が診れば、の仮定です。無茶な話ですが、専門医が少ないという事実には付合します。

そのほかの領域はどうでしょうか。頭痛専門医ほどではありませんが、専門医の少ない領域(診療科)が少なくありません。専門医1人当たりの患者数を調べてみました(下表)。推計患者数(調査日における数)は厚生労働省による2017年のデータ*、専門医数は日本専門医機構の2019年の日本専門医制度既報**によります。
*https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/01.pdf
**https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2020/01/gaiho_2019.pdf

その領域の疾患を全て専門医が診るという前提自体、前述の片頭痛と同じく無茶な話であるのは百も承知です。それでも専門医とは何か、専門医はその領域の何を診るのか、専門医だけで診ることができなければ専門医以外の誰が診るのか、を考える参考にはなります。

入院と外来とで専門医1人当たりが診る患者数は大きく異なります。入院では脳血管障害と呼吸器疾患が最多です。外来では呼吸器疾患が多く、次いで小児科、循環器疾患、皮膚疾患、糖尿病となります。
小児科はほとんど小児科医が診ているはずです。皮膚疾患は一般の医師でも一定程度診られますが、多くは皮膚科医が診ます。小児科・皮膚科の外来が混む1つの理由になるかもしれません。もちろん数だけでは判断できません。例えば精神科は患者1人当たりにかける時間は長くなります。暇だとは決して言えません。
一方、呼吸器疾患は入院も外来も呼吸器専門医以外の医師が圧倒的に多く診ていると思います。脳血管障害・循環器疾患もそうだろうと思います。脳血管障害患者はリハビリテーション科や一般内科の医師が担当することが少なくありません。循環器疾患の多くは高血圧症です。循環器専門医でなくても一般内科医、ときに外科医や精神科医でも診られる疾患です。糖尿病診療にも似たところがあります。
とはいえ、重症肺炎、重症心不全、難治性不整脈、コントロール不良糖尿病などは専門医に診てもらいたいと私も患者も家族も強く願います。
しかし、これがなかなかうまく行きません。高齢の入院患者では特にそうです。認知症、肺炎、脳血管障害、心不全、糖尿病、腎不全が複数、場合により全て合併している入院患者の場合、専門医に送ることがなかなかできません。1つの領域の専門医であっても他領域にまで関わることに尻込みする人が多いからです。相手施設内に全ての領域の専門医が常勤で揃っていても、要の役割を担う1人の医師を見つけるのは大変です。

ならば、自分なりに努力してみようか。
専門医の少ない領域での診療では、あるいは多分野にまたがる患者の診療では、こうした努力が大切だと思います。一方、専門医のかたには、非専門医に対する温かな配慮もお願いしたいところです。

専門医と非専門医との協働による診療はある意味「全員参加型の医療」です。「全員参加型」の意義については救急医療で少し述べたことがあります(2021/11/29ブログ)。新型コロナの診療でもそれを強く感じました。医療のあらゆる領域で「全員参加型」はやはり必要だと思うのです。