抗体カクテル療法の問題点

東京オリンピック2020が閉幕しました。選手たちのひたむきなプレーは感動的でした。
オリンピックとの関係は不明ですが、開催時期に重なるように新型コロナウイルス感染症は爆発的に拡大しました。私は多くの職員の協力をもらいながら、激増する発熱外来の対応、陰性者への連絡とその後の診療、陽性者への説明と保健所への届出、県調整本部からの相次ぐ入院要請に忙殺されています。

新型コロナの確診がつけば、重症化リスクを下げるため抗体カクテルを投与するのがよいと考えてきました。そのための準備を行い、先週から抗体カクテルが使えるようになりました(2021/8/6ブログ)。

しかし、問題は山積です。
抗体カクテルは新型コロナと診断されたら全員に投与したいところです。
ところが適応は発症後7日以内に限られます。8日目以降のデータがないことが理由です。また、入院患者に限られます。副反応対策だと言われていますが軽症に使うのであれば外来でこそ使われなければならないはずです。外来や在宅での使用を認めるよう医療界や自治体から要望が出されているのは肯けるところです。
こうした「厳しい」要件が付けられている理由として、薬剤の供給量が限られているからだという説があります。一説によると政府は7万人分(治療は1回の点滴で終了するので7万回分)を確保しているとのことです。仮に毎日1万人の新規感染者が出て全員に注射をするとなると供給は1週間で底を尽きます。
高額な抗体医薬品、しかも数が限られていれば、重症化しやすい患者に限定したほうがよい、ということになります。
現在、抗体カクテル療法は、高齢者や基礎疾患合併例などリスクの高い人に限るべきだとされています。しかも発症後1週間以内です。

そこでもう1つ困ったことが生じます。
抗体カクテルを病院に取り置きすることができないのです。診断がついてから発注をかけます。週末に陽性が判明すると発注は翌週になります。今週のように月曜日が休日だと発注は火曜日、入手は水曜日になります。これで4日が過ぎてしまいます。
現在、当院ではPCR検査は外注しています。感染爆発に伴い外注先の検査会社には検体が殺到し、結果が届くのは、従来だと翌日だったのがほとんど翌々日になってきました。再検査に手間取ると翌々々日になります。最悪、検査結果が出るまで3日かかることになります。
感染者が発症の日に病院に来ることは多くありません。新型コロナへの不安が高まっていますので以前より早く受診するようになったとは言え、発症後2-3日後に受診となる例がほとんどです。
発症から受診までの日数、確定診断が出るまでの日数、医薬品を発注できるまでの日数、発注から入手できるまでの日数、これらを合わせて発症7日以内が抗体カクテル使用の条件となるのです。
こうした事情を踏まえ、院内の条件だけでも改善を図ろうとしています。新型コロナの抗原検査は15分で結果が出ますが感度・特異度が十分ではないとして、当院ではPCR検査を多用してきました。しかし、感染爆発が生じ、しかも抗体カクテルが使える今は再考すべきです。また迅速PCR検査機器の導入も進めるべきです。

ほかにも問題があります。なぜかは分かりませんが、発注して届く抗体カクテルは点滴静注セット1332のみで、1セット2人分になっているのです。1人分を使うともう1人分は低温保存でも48時間以内に使わなければなりません。「最大保存期間を超えた場合は使用せず破棄すること」(図参照)となっています。
抗体カクテルは今のところ国が購入してくれます。破棄しても病院の損にはなりません。しかし破棄は許されるはずもありません。
条件の合う新規患者を見つけ、幸い当院ではまだ破棄したことはありません。病院によっては行政と組んで「カクテル適応患者を見つけるシステム」がとられていると聞いています。当院でもいずれこうした方策を取ることになると思います。
人手のない中、忙殺され、いつ重症化するかもしれない入院患者の診療に神経をすり減らしています。それでも新しいシステムを作らねばならないところも問題点です。