救急医療

先週の土曜日午後、市立病院で「救命救急センター症例検討会」が開かれるというので出かけました。外来の看護師長と主任看護師も一緒でした。

当院で重症患者を受け入れることができず、やむを得ず高次機能医療機関にお願いすることが時々あります。お願いの連絡を入れ、受け入れのご返事をいただくと「ありがとうございます」と電話の相手に向かって深々と頭を下げます。転院要請を快く受けてくださるのが救命救急センターです。そこでの症例検討会は日頃の感謝を伝える絶好の機会です。同時に、どのような患者が運ばれてくるのか、診断と治療はどうだったのか、結局その転帰はどうだったのか。知りたいことがたくさんありました。またとない勉強の機会でもあります。

いつもだと土曜日は午前中の外来診療のあと、午後に入院患者の回診、患者・家族との複数の面談、次週の予定入院患者(毎週3人程度)の検査予約と指示簿記載があります。急いで従来のノルマをこなし、昼食を簡単に済ませ、午後1時40分慌ただしく病院を出ました。

「症例検討会」は症例検討会ではありませんでした。救命救急センター開設1年の報告と見学でした。もちろんそれはそれで勉強になりました。比較的少ない人員で救命救急センターを運営していることを知ったからです。例えば、医師の当直は月10回。責任者は、救急に興味のある医師の獲得に奔走したようです。それでも人の確保はうまくいかなかったとのこと。来年度はドクターカーの運用を始める、将来的には「外傷センター」の開設を目指す、とのこと。そのご苦労を聞き大変さを思いました。

10数年前、私は前任地の県立病院の院長として救急センターの設計・新築・運用に関わりました。隣にヘリポートを建て、ドクヘリの運用に協力しました。後輩の熱意によりドクターカーの運用もできました。
ただでさえ救急医療は医師に負担をかけます。「断らない救急」を掲げると軋轢が生じます。綱渡りでどうにか任期を終えました。

心残りは「外傷センター」でした。任期後半、「外傷センターを県内にせめて1ヶ所設置できないか」と県庁上層部から言われ画策しました。が、諦めました。
救急センターだけでも人材確保がやっとです。外傷センターとなると「外傷に強い」外科系各診療科の医師を上乗せしなければなりません。ただし外科系医師だけで外傷の全てをみることはできません。救命救急レベルとなれば、麻酔科、内科各科、精神科、放射線診断の医師の増員も必要です。そもそも医師の働き方改革はどうするのか。小児や妊婦はどうするか。考えればキリがありません。医師ばかりでなく他職種の拡充も必要です。人材確保以外に機器の整備、搬送システム・登録システムの構築もしなければなりません。アメリカのTrauma Center(外傷センター)のレベルIの基準を読み、途方に暮れました。もちろん日本にも「外傷センター」を標榜する医療機関は少ないながらもありました。よくやっていると頭が下がりました。
医師不足の中、それでも新たに立ち上げるのか。矢尽き刀折れの心境になりました。外傷は、一般の二次・三次救急の中で「分散的に」行うほかない。そう結論しました。

それから7年余、救急医療は急には変われないようです。日本の医療制度の中では所詮無理な話のように思います。抜本的には医療への金の使い方(=医療費のあり方)を改めるほかない、と思います(たぶん不可能)。それまでは外傷にせよ、内因性疾患にせよ、医療者全員が何らかの形で救急医療に関わる「全員参加型」でいくほかないと考えます。

今の病院で規模に応じた協力を誠実に実践しようとあらためて思いました。