<新型コロナウイルス感染症の病床調整会議/h2>

先週、埼玉県の「新型コロナウイルス感染症の縮小期から再拡大期を見据えた確保病床の弾力的な運用を図る調整会議」という長い名前の会議が開かれました。
4月上旬の厳しい状況を辛うじて乗り越え、第2波、第3波に備えて病床を確保しようとするものです。県の担当者だけでなく、厚生労働省からも4名が壇上に上がっていました。

新型コロナウイルス感染症の診療に当たっている県内50数施設が参加しました。当院のように発熱外来を設けて診断を主とする施設もありましたが、重症者を積極的に受け入れている施設が多く参加していました。

再拡大期の最悪パターンによると、埼玉県内の必要病床数は2400とされます。配布資料には、個々の公立・公的病院に対する病床数の割り当て(感染症病床75、一般病床のうち重症病床358、中等症病床1643、合計2076)が具体的に記載されていました。残りの重症病床58、中等症病床273、合計331は民間の一般病院が担当することになります。ただし、公的・公立病院が名指しで数字を割り当てられたのに対し、民間病院への具体的な割り当てはありませんでした。

こうした県の説明に続き、厚労省の担当官から「今後を見据えた医療提供体制整備に向けた当面の対応」について説明がありました。説明の前半は「重症・中等症・擬似症例など症度別に応じた医療体制」すなわち「神奈川モデル」についてでした。新型コロナウイルス感染症の治療が必要な精神疾患患者に対する新たな神奈川モデルの紹介もありました。説明の後半は「医療機関への支援策」についてでした。要するに、新型コロナウイルス感染症による病院経営の窮状を第二次補正予算1兆6279億円で国は「きちんと」手当します、というものでした。医療従事者への慰労金の支給、疑い患者受け入れ病院の院内感染対策などに1兆1788億円、マスク・ガウン・フェイスシールド等の確保・配布に4379億円などです。このうち疑い患者受け入れ病院の院内感染対策の支援金は、99床以下2000万円、100床以上3000万円、さらに100床ごとに1000万円、とのことでした。

一連の説明のあと質疑応答に移りました。重症者を多く受け入れている病院の院長たちが一斉に手を挙げました。ほとんどが医療体制の窮状とともに経営の切羽詰まった状況を訴えました。億単位の損失に対し千万単位ではとても足りないという必死の声に対し、国の担当者はひたすら先ほどの説明で述べた病院支援金の話を繰り返しました。次の補正予算もあるはずだ、とも言っていました。ある院長が、支援金は毎月ですか、と質問しました。一瞬、会場が凍りました。誰しも毎月のわけがない、と思ったからです。国の担当者は、苦しげに「毎月ではありません」と答えました。
このあと「病院の経営保証はしないのか」という質問に移っていきました。病院が潰れると国民の健康に甚大な影響が出るからです。しかし、国会の答弁を聞いてわかるように、どの業種であれ、国は経営保証をしないと明言しています。当然、厚労省の担当者は「経営保証をするものではありません」と、今度は苦しげもなく答えていました。

病院運営は公的事業です。だから何とか優遇してもらいたい。当院の厳しい経営事情を思っても、その通りだと私も思いました。しかし、「病院が潰れる、従業員が路頭に迷う」という院長たちの言葉を少し冷めた目で聞いていました。従業員が路頭に迷う業種は病院だけではないはずだという思いが1つ。もう1つは、医療とはこんなものだという思い、ある意味、諦念です。同輩の批判を覚悟で言えば、医療の世界に逆境は付き物です。逆境で萎える使命感ではないはずです。
院長たちも冷静のように思えました。「経営保証がないなら、再拡大期の病床割り当ては拒否する」と息まく声は最後まで1つもありませんでした。

会議は予定の午後7時にはとても終わらず、午後8時過ぎまで続きました。