新型コロナワクチン接種計画

新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない中、世界中でワクチンへの期待が高まっています(2021/1/5ブログ参照)。先週、県主催の「新型コロナウイルスワクチン接種の体制確保等に係る説明会」が開かれました(図参照)。会場とウェブのハイブリッド開催でした。
当院では多くの職員が夜8時過ぎまで外来ホールに集まってウェブで情報を共有しました。

この説明会を聞くと、オリンピック開催に絡むためか、ワクチン接種計画が猛烈なペースで進んでいます。同様の医療者向け説明会は全国各地でも行われているはずです。
日本は先進国の中ではスタートが遅れ、2月下旬からの接種開始になる見込みです。はじめに医療従事者、続いて65歳以上、基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者、一般の人の順番で接種が行われます。オリンピックに間に合わせるためには3月1日から6月30日までの実質122日の間に国民のほぼ全員に接種しなければなりません。

国はファイザー社、アストラゼネカ社、武田/モデルナ社の3社のワクチンを使う予定です。いずれも1人2回の接種が必要となります。
日本国民のほぼ全員となると1億2700万人に2回接種ですので、合計で2億5400万回の注射となります。土・日・祝日に関係なく注射をすれば1日当たり208万1967回。ただし、1回目と2回目の接種の間隔は3週間(ファイザー社)ないし4週間(アストラゼネカ社、武田/モデルナ社)とされます。その間隔を仮に1ヶ月に統一すると、1回目接種は3月1日から5月31日、2回目接種は4月1日から6月30日となります。

計算を簡単にするため1ヶ月を30日、接種を受ける日本国民の数を1億2000万人とします。1回目接種は3月〜5月、毎月4000万人、毎日133万人。2回目接種は4月〜6月、同じく毎月4000万人、毎日133万人。1回目と2回目の接種が重なる4月と5月は月に8000万人、毎日267万人が接種を受けることになります。
日本の医師数は32万人余りです。今も臨床に関わっている医師ばかりではないでしょう。引退に近い医師もいるでしょう。しかし、緊急事態です。医師のほぼ全員がワクチン接種に関わるとします。もちろん、実際の注射は看護師がします。しかし、医師は必ず問診に関わり、ワクチン接種の責任者になります。4月と5月は土・日・休日に関係なく接種に当たると1日平均約9人の接種に全医師は関わらなければいけません。

しかし、日本の医師全員から協力は得られません。予防接種ばかりが医師の仕事ではないからです。仮に1/10の医師3万人が協力するとします。土・日・休日関係なくというのも無理です。週5日で行うとします。となると、9 × 10 × 7/5 = 126、すなわちワクチン接種に関わる医師は4月と5月の月曜から金曜まで毎日1人平均126回の問診をすることになります。インフルエンザ予防接種の経験からすると問診に2時間かかります。ゴールデンウイークを休診にすると1日当たりの接種人数も時間も増えます。1人でも多くの医師が協力してくれれば、負担は少なくなります。

大変な話です。注射をする看護師も大変です。注射は従来の予防接種と異なり筋肉注射です。筋肉は血管が豊富ですから血管内への注射となってしまう可能性もあります。しかも新しいタイプのワクチン(mRNA)です。副反応に注意する必要があり、慎重な対応が求められます。事実、アナフィラキシーショックのおよその割合は1万回に1回とされます(インフルエンザ予防接種 [皮下注射]は10万回に1回)。アナフィラキシーショックに備えて接種終了後30分の観察とアドレナリン注射の準備が必要とされます。

1分間に1人ずつ接種をすると2時間で120人分が終わります。医師は問診だけの2時間で済みますが、看護師は接種と30分の観察とを合わせて2時間半、事務は受付開始から最後の接種者の退室まで3時間を要します。アナフィラキシーや気分の悪い人が出ると時間はさらに延びます。

注射前後の場所の確保も大変です。仮に30分毎の枠に30人ずつ予約を入れると、接種前30人分と接種後30分間30人分の待機場所が必要となります。両者を1箇所に集めると60人分のスペースが必要です。30人ずつ分ける場合は2箇所必要です。新型コロナの予防接種の場が3密状態になってクラスター発生なんてことは、冗談にもなりません。
15分毎の予約にして15人ずつ3箇所のスペースを確保する方法もあります。
各病院は今後、場所も含め接種スケジュールを入念に検討する必要があるでしょう。

大変な話です。しかし、不可能な話ではありません。
国は必死です。国の命令を受けた都道府県も、さらにその下の市町村も必死です。医師会も全面的に協力することになっています。私たち病院も協力します。
その一方で、ワクチンは受けたくない、という人も多くいます。
私たち医療者がワクチン接種に協力するのは、新型コロナの恐ろしさを知っているからです。ワクチンの安全性は副反応対策を怠らなければ許容内だと考えるからです。

新型コロナウイルス感染症を1日でも早く終息させることが大切です。オリンピック開催のためであろうが、理屈は何でもよいと思います。ただし、オリンピックに間に合わせるために医療者がワクチン接種を急いでいるというのは誤解です。日本国民だけ予防接種が済めばオリンピックを開催してよいということでもないでしょう。世界共通の思いとして新型コロナウイルス感染症の一刻も早い終焉を願うばかりです。
ご理解をお願いいたします。