昨日の日曜日、静岡市で開かれた日本リハビリテーション医学会秋季学術集会に参加しました。会員になって初めての参加でした。

些細なことからで恐縮です。学会運営で3つ気になりました。まず参加費が正会員でも2万円だったこと(非会員の医師は2万1千円)。会員数が少ないので高いのは仕方ないと思いますが、そうであればリハビリ医の増加に学会はもっと努力してもらいたいと思います(6月14日のブログ参照)。しかもクレジットカードが使えませんでした。「現金があるかな・・・」と財布を出しながら呟いたら、「向かいにコンビニがあります」と即座に言われギョッとしました。2つ目は男性のトイレが各階になかったこと。参加者は圧倒的に男性が多かったのですが(これもリハビリの学会にしてはと不思議に思いました)、案内された1階の男性用トイレに小便器は3つしかなく、長蛇の列になっていました。3つ目はランチョンの弁当。明らかに炭水化物過多、野菜不足でした。栄養管理を重んじるリハビリの学会にふさわしくありません。成分表記もありませんでした。せめて総カロリー・蛋白・脂肪・炭水化物・食塩相当量が明示されたものを提供すべきです。
歳をとると五月蝿くなる自分が時に嫌になります。すみません。

教育講演Aを午前3題(「リハビリテーション医療体制」、「腎機能障害とそのリハビリテーション」、「脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーション」)、午後3題(「神経発達症の治療と支援の実際」、「高齢者の呼吸リハビリテーション」、「半側空間無視のリハビリテーション」)、フルに聞きました。勉強になりました。ランチョンも(弁当を除けば)申し分ありませんでした(「骨粗鬆症に対する地域連携と院内連携〜リエゾンサービスチームの作り方」小谷俊明氏、聖隷佐倉市民病院整形外科)。

今回の学会参加に期待したのは、リハビリテーションのエビデンスを知ることでした。リハビリに関わるようになって半年弱、日々の診療の中で自分が常に感じてきたのは、「今のリハビリにエビデンスはあるのか」でした。例えば、リハビリが未だゴールに達していないのに退院したいと強行に言ってくる患者や家族が少なからずいます。入院生活の縛りに耐えきれないという主張です。一理あります。これを説得できるだけのエビデンスが実はない、ということに気づきます。現状のまま退院したら自宅で転倒して再骨折する確率はどのくらいあるのか、リハビリの最終目標に達してから自宅退院した場合の再骨折の確率はどのくらいなのか。それがそれぞれ5%と3%だとしたら、本人の希望を優先させてもよいのではないか。一方、それが20%と3%と大きな(有意な)差があれば、その数字を具体的に示して即時の退院を思い止まるよう強く説得できます。残念ながらそのデータはありません。自分の勉強不足かもしれませんが、説得力のあるデータがありません。誤嚥の話も同様です。嚥下試験が誤嚥防止にどれほど有用なのか、具体的なデータはないと聞いています。

教育講演A 22「脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーション」(竹林崇氏、大阪府立大学総合リハビリテーション学類)によれば、リハビリでエビデンスがあるのは5つしかないとのことです。①CI療法(非麻痺側制限療法)、②メンタル・プラクティス、③電気刺激、④ロボット療法、⑤ミラー・セラピーの5つだそうです。個人的には、エビデンスだけで臨床が行われているわけではないことは外科医として長年仕事をしてきた立場から言えます。外科も徒弟制度のようなところが昔からあり、こうやれと言われ続けていたら呆気なく否定されたのを何度も経験してきましたから、あまり偉そうには言えません。ただし、リハビリの分野でもエビデンスの積み重ねの努力が日々なされていることはよく分かりました。1つのエビデンスを得るのに7年かかったという話が今回ありました(前述の竹林氏)。これはリハビリに限らず、外科でも内科でも、がん領域でも同じです。10年、15年かけて出るエビデンスすらあります。臨床では、常に新しい知見を求めて地道に努力するほかないということです。

興味深かったのは教育講演A25「半側空間無視のリハビリテーション」(水野勝広氏、国立精神神経医療研究センター身体リハビリテーション部)です。9月28-29日の回復期リハ病棟専従医師研修会に参加したときは「半側空間無視は左側にしかない」と聞きました(9月30日のブログ)。その理由は「右脳は左右両側を認識するが、左脳は右側のみを認識する。だから右脳損傷では左半側無視が生じ、左脳の損傷では右半側無視は起きない」とのことでした。理解したと思いました。ところが今回、水野氏によれば左脳の障害で右半側空間無視が少なからずみられるとのことです。「右半側空間無視はなぜ無視されてきたか」というユニークな問いかけで解説していました。右半側空間無視が無視されてきた理由は、優位半球(=左大脳半球)の障害のために失語や利き手の麻痺が起こり、右半側空間無視の所見が十分に捉えられないからではないか、ということでした。注意深く観察すれば、左より少ないものの右にも半側空間無視は見られるとのことでした。
真実は何か。どの世界にも共通する課題をあらためて感じました。