日本版CDCの議論で思うこと

CDC = Centers for Disease Control (and Prevention) 疾病対策(予防)センターはアメリカの感染症対策の司令塔と言われています。
不思議なのは感染症対策センターではなく、疾病対策センターの名称です。
詳しいことは分かりませんが、対策を要する疾病の多くが感染症だから疾病対策と言えば自然と感染症対策に注目が集まるのかもしれません。

新型コロナウイルス感染症勃発直後から、日本の課題は日本版CDCがないことだと言われていました。私自身は必ずしもそういうことではないという思いがありました。司令塔さえできれば日本の感染症対策が進むのかという本質的なところで疑問を持っていました。

例えば、がん対策にしても、循環器病対策にしても、それぞれ対策基本法ができて大きな動きが出てきましたが(2021/11/6ブログ)、司令塔となる組織を新たに作らなくてもそれなりの対応ができてきているように思います。
もちろん、がん対策も循環器疾患も理想的とは言えません。が、そこそこの対策はできるようになりました。それに比べ感染症対策はかなり見劣りがします。
しかしそれは司令塔の不足では決してないと私は思うのです。

では何が問題なのでしょうか。
医師を含め医療側は感染症の基本的な教育を十分受けていないことが問題です。感染症の専門家があまりに少なすぎるのも大きな問題です。ちょうど新型コロナのパンデミックが日本で起き始めた2年3ヶ月前にこのブログで指摘しました(2020/3/13ブログ)。
日本の医学教育の中で感染症学がなおざりにされています。大学医学部に感染症の単独の講座が少なすぎる状況を憂いたのです。医学教育の中で感染症を研究する、教育する、その上で実践する体制がほとんどできていないのです。一般の人は驚かれると思いますが、事実です。

では新型コロナパンデミックの反省に立って、あらためて大学医学部に独立した感染症学講座を設けようという動きが生じたでしょうか。私の耳には届いていません。設置しようにも循環器・消化器・呼吸器などと異なり、人材不足が大きなネックになっているはずです。

大学附属病院に感染症を扱う部署は以前からありました。あくまでも病院のひとつの診療部門としてです。それでも附属病院のCOVID-19対応ではこうした部署が必死の努力を重ねていました。しかし附属病院の診療部門としての存在と、医学部の中で研究・教育・臨床を行う講座とは雲泥の差があります。研究力・教育力、したがって人材の輩出力が全然違うのです。
詳細は前回のブログで述べましたので繰り返しません。

大学医学部教育の根幹を変えないことには、日本版CDCの将来にあまり期待できないように私には思えます。