温故知新ニ非ス。
最近、ある外科の研究会に出席してこの言葉が浮かびました。

実は40年前に遡ります。あることを知ろうと思い、ある研究に着手しました。過去にそうした研究がないかをまず調べました。過去に遡って文献を読んでいきました。当時、インターネットはありません。大学図書館に通いました。昼間は通常業務がありますので、夜7時頃から閉館の夜10時まで文献を当たりました。

日本の文献は医学中央雑誌で調べることができます。まず日本語の「アイウエオ」順に索引で調べるのですが、大正から明治になると、索引は「イロハ」になります。私が専門とした膵臓(すいぞう)はイロハのどこなのか。
「色は匂へど(イロハニホヘト)」の古歌を辿ると、「ス」は最後の五音「酔(ゑ)ひもせず(ヱヒモセス)」の最後尾にあります。だから、最後のページをくくると膵臓の目指す文献があるかどうかが分かりました。

世界の文献はIndex Medicusで調べます。1879年から毎年発刊されています。英語によるABC順の分冊での発刊です。1冊でもかなりのボリュームです。膵臓はPancreas。Pの分冊を「よいしょ」と取り出して調べました。
成書と呼ばれる内外の教科書からの「孫引き」で原典に当たることもありました。
病院業務を早めに切り上げて毎晩、図書館に通うこと約1ヵ月。日本の文献は76年、世界は100年遡りました。その結果、「既に調べられていること」と「未だ調べられていないこと」とを知り、そこで初めて「独創に基づく」と信じる新しいテーマの研究を始めることになったのです。

これを医学の温故知新と言うのだと思っています。
ところが先日の研究会では多数の演題があっても、残念ながらどれも当てはまりませんでした。
インターネットの時代、もっと簡単に、もっと網羅的に調べられるのに、と思いました。