画家にとっての解剖学

第6回日本メディカルイラストレーション学術集会(2022/3/13開催、4/1-4/30オンデマンド配信)の講演3は、歴史考証復元画家・末松 智(すえまつ さとし)氏の「画家にとっての解剖学」でした。
末松氏は金沢医科大学でメディカルドローイングを教えています。医学生に絵を教える教員がいるとは!? 羨ましく思うとともに素晴らしい時代になったことを喜びます。

授業は講義と演習を織り交ぜているとのこと。具体的には、人体の骨格や臓器を描いていくそうです。これにより物を正確に描写することを通して、技術だけではなく物の形を正確に捉える観察眼、認識力を養うことを目指すとのことです。
美術の世界、とくに人物画を扱う世界では解剖学の知識が不可欠です。末松氏は自らが手がけた肖像画を例に「画家にとっての解剖学」を論じていきました。

その肖像画は、加賀藩祖前田利家の側室で前田家三代当主・利常の生母・寿福院の姿を再現したものです。しかし寿福院については「天下一の美女」という文献があるのみで、絵が残されていません。どのようにして描いたのでしょうか。
末松氏はまず異母兄の日淳上人(妙成寺[みょうじょうじ]十四世管主)と息子の利常の絵が残されていることに着目しました。2人の顔から目元や鼻、目や眉の特徴を捉えていきます。さらに寿福院の業績を調べ、寿福院の墓を幾度となく訪れて「核心」に迫っていきました。

その過程は芸術であり、科学でもあるというのです。
こうして完成させた寿福院肖像。寿福院が信奉していた能登の法華古刹である妙成寺(石川県羽咋市)に奉納されました。この時のことを末松氏は感慨深い言葉で語っていました。幸い、その時の様子が北陸朝日放送公式ページの動画に残されています*。
*https://www.youtube.com/watch?v=aqiNnsoToQA

ひとりの人物に迫る壮絶な物語を聞いた思いがしました。これは確かに芸術であり、科学でもありました。
現在の医療の中でも同様のことがあり得るように思いました。次回「患者の職業」で述べたいと思います。