病院食のこと

病院には多くの投書をいただきます。投書は非常に貴重だと私はいつも感謝の気持ちで読ませていただいています。
投書は、おおよそですが、お褒め半分、お叱り半分です。これは大学病院にいても県立病院にいても、今の民間病院にいてもほぼ同じです。
一番多いお叱りは職員の接遇に関することです。態度が悪い、言葉がきつい、不親切などが槍玉に上がります。多くは誤解だと私は認識しています。しかしそうだとしても誤解を与えたことは事実です。個人名が入った投書はそれを伏せて接遇改善のために職員で共有するように努めてきました。
食事への不満は最近ずいぶん少なくなりました。「食事がまずい」という御意見の多くは「うす味」が原因でした。減塩が体によいことが一般の人にも浸透してきて苦情は少なくなったように思います。「病院の食事は塩分が少ないのは仕方ない」とまで言ってくださいます。それでも食事への注文は今でもそれなりにあります。保険制度のもとでは1食にかける費用は限られます。その中で栄養士や調理師は苦労して病院食を出してくれています。苦労するのは、病気に打ち勝つための栄養、回復に必要な栄養をどう確保するかです。

当院では週に一度、必ず担当入院患者全員の病棟カンファレンスが行われています(2019/5/10ブログ)。医師・看護師・リハビリ療法士・栄養士・ソーシャルワーカー等が参加します。認知症があっても、寝たきりであっても、今後どうすればベストの治療、看護、リハビリ、栄養、介護、福祉が受けられるか、を話し合っています。それぞれ専門の立場で意見を言ってくれます。大変勉強になりますし、何よりも患者・家族を考えての真摯な議論が私には嬉しいのです。
ほとんどが高齢患者です。栄養が常に問題になります。飲み込みも問題になります。
嚥下機能が落ちていれば嚥下造影検査(VF)でまず評価しよう、トロミはこうしよう、キザミにしようか、米飯はどうしよう、パンは大丈夫か、などと議論します。食事がある程度摂取できる患者は、好みの問題があります。これも小まめに調整するようにします。
病気に打ち勝つためには、リハビリに励むためには、どうしても一定の摂取カロリーが必要です。好みの問題も「仕方ない」で済ますのではなく、基本の中で応用を利かせる工夫がなされています。その点、管理栄養士・調理師の努力には頭が下がります。

退院された患者さんから次のようなメッセージを最近いただきました。

「私の経験では、世の中の緊急搬送を受け入れる度合いの強い大きな病院では病院食のメニューはだいたい2週間程度で一巡していました。また病院食というコストを考えなくてはいけないことから食材は貧弱だというのが常識なんだと思います。
ところがここの病院の病院食には豊富なメニューのラインナップがあり何か月か入院していても初めて出てくる料理もありました。ここの病院食は私が感じたのは和食系の料理の味付けが素晴らしいです。微妙な味を出していました。
塩分を控える病院食なのに出汁を上手く使って塩加減を満足して味わえるものも多かったです。お浸しとかに特にそう感じました。
また、同じメニュー名の、例えば「重ね蒸し」という料理なんかは、組み合わせる食材とかける餡やソースを変えて、同じメニュー名なのに違う味のものを何度も楽しめました。
肉料理でもケチャップ系の味のついたメニューは美味しく大好きでした。ブロッコリーを茹でたものに辛子マヨネーズ味で和えたものとかとても素晴らしかったです。
魚料理は仕入れ先がいいのか、素材の魚がいつも身が厚くボリューム感があるものばかりで満足させていただきました。
私は病人にとって、特に入院中の食事は治療のひとつだと思っています。食べることは重要な治療のひとつです。
点滴とか服薬とか検査とか患者にとって苦しいと感じる医療行為がほとんどの中で、病院食は唯一患者が楽しめる可能性をもった治療です。
それをここの管理栄養士さん方、調理スタッフは素敵な素晴らしい仕事で実践してくれていると感じていました。
きっと管理栄養士さんがグランドデザインした献立を調理スタッフさんたちが実現してくれていたのでしょう。
〇〇先生から伺ったところでは患者一人一人単位で食事も含む治療方針を管理栄養士さんも交えて日々カンファレンスで協議していたとのことです。とても頭が下がりました。感謝しかなかったです。
そして病院食が一番私の不調の心身に元気を与え、回復していくための勇気をくれたと感じています。はっきりいって、この病院食から離れる退院をしたくなかったと思っていたとも思っています。日々食事を配膳していただいたヘルパーさんや看護師さんにも勿論感謝していました。
これからも同じように入院患者さんたちに素晴らしい素敵な病院食を提供しつづけてください。」

要望もありました。

「「配膳カード」は1枚の紙でしかありませんが、調理現場と患者の間を動く唯一の媒体です。コミュニケーションに使えたら簡単でコストもかからない便利な通信媒体になる可能性を秘めていると思います。「配膳カード」の表の下のほうに『食事に関する意見や感想をお書きください』の一文を載せるだけでも、
裏面に何か書いてくれる患者さんはいらっしゃると思います。(ペンを使える元気な患者さんに限られてしまいますが・・)
病棟の洗面所や1階の掲示板に備え付けの「意見書要望書」では書くのは面倒かもしれませんが、毎食の食事トレーに乗せられてくる「配膳カード」になら患者側も簡単にコメント出来ると思います。」

ご意見を励みに改善の努力を続けたいと思います。