症例報告から思うこと

日本感染症学会のウェブサイトに新型コロナウイルス感染症の症例報告がいくつか載っています。最近、アップロードされた1つにS病院の脳神経外科医からの臨床報告があります。
S病院は日本で最初に新型コロナウイルス感染症で亡くなった患者さんが発病当初に入院していた病院(160床)です。肺炎が重症化して高次機能病院に転送されましたが、そのあと職員の感染が判明し、さらに3人の入院患者の発症が明らかになりました。3人の入院患者のうち2人は肺炎が重症化し人工呼吸器管理となりました。その経緯と治療内容を詳細に報告しています。

序文から抜粋します。
「当院職員であることだけで世間からは接触を拒まれたり、さらには他病院からの非常勤医師の派遣も断られた。」、「重症化した2症例は、発症当初の2月下旬の時点では、感染症専門病院へ再三の患者転送を依頼したにもかかわらず、どの大規模病院ですら「現時点での対応が困難」、との理由で転院できない状況であった。」、「呼吸状態が不良となった重症型の新型コロナ肺炎における致死率は高いとされるが、こうして当院では非常勤呼吸器内科医師のアドバイス以外は、非専門医で治療することを余儀なくされたのである。各種の抗ウイルス薬のまさにカクテル療法に加え、ステロイド、急性肺障害に準じて使用したエラスポールを使用し、現時点では重症肺炎を救命することができたと考えている。当院の経験を集積することで、今後の治療のヒントとなる知見が得られることを期待して、ここに2症例を報告させていただく。」

厚生労働省は3月1日、「新型コロナウイルスの患者数が大幅に増えたときに備えた医療提供体制等の検討について」という事務連絡を都道府県等に出しました。従来の方針(2020.2.19のブログ参照)の大転換です。重要な変更箇所は次の2点です。
① 地域での感染拡大によっては、一般の病院も必要な感染予防策を講じた上で新型コロナウイルス感染症を疑う患者の外来診療を行うこととする。
② 地域での感染拡大で入院患者が増大した場合、感染症指定病院に限らず、一般の病院においても必要な予防策を講じた上で必要な病床を確保する。

S病院と同じことが病床規模の似た当院でも起こるかもしれない、ということです。さらに情報を集めてみると、人工呼吸器管理までは一般病院で治療する、人工肺(ECMO)を回さなければならない最重症例に限って専門病院への転送が認められる、という話もありました。立場のある者が軽々しく噂を口にしてはいけないことは重々承知しておりますが、流行ピークの患者数の計算式が国から都道府県に配布されています。それをみると現実味のある話のようにも思えます。全ての病院の人工呼吸器総動員という事態だけは何としても避けたいものです。