発熱外来から見える今の医療

新型コロナウイルス感染症への不安から、多くのクリニック・病院が発熱や風邪症状の患者を診ようとしなくなりました。
多くの医療機関で診療拒否された患者からの問い合わせが増えています。

当院では、こうした患者をできるだけ診てあげるようにしています。
「診る」とは言っても、やはり新型コロナの可能性は常に考えなければなりません。厳重な防護用具を装着してPCR検査を行い、必要なら院内処方の解熱薬(アセトアミノフェン)や鎮咳薬を手渡してひとまず帰っていただくのを基本としています
全ての過程は屋外で所定の方式に従って行います。問診は電話(はじめ看護師、のち医師)、PCR検査と配薬はドライブスルー(看護師)です。例外的に車を持たない人だけ隔離室で行います。

問診で新型コロナ以外の疾患を疑ったとき、かつ、緊急性が高いと考えたとき、PCRのほかに採血や画像検査も同時に行います。この判断はかなりの困難とリスクを伴います。採血は屋内(隔離室)で、しかも患者に接近して行わなければなりません。画像検査も、胸部XPにするのか、胸部 CTも撮るのか、迷います。1回の撮影、1つの検査室、かつ精密な画像、となるとCTです。しかしCTだと放射線被曝の説明をしなければなりません。若い人、とくに若い女性にCTはどうなのか。CTを撮影すると決めても、撮影の時間帯や患者動線に気をつかいます。放射線技師の感染リスクにも注意する必要があります。接触をできるだけ避けるには、歩行や車椅子で撮影室に入るよりもストレッチャーに乗せて入り、CTの寝台に移動させるのが、患者との距離を保つにはよい、と技師が教えてくれました。「怪しい」肺画像が見つかると、CT室の換気を1時間行わなければなりません。

こうして診察した結果を簡単にお伝えします。個人情報が絡みますので詳しくは述べられませんが、PCR検査を始めてから陽性例(検出例)は今のところ出ていません。PCRには偽陰性(本当は陽性だが検査では陰性と出ること)が30%あるとよく言われます。ただし、正確な数字の証明は難しく今のところエビデンスはないと思います。また、症状が3週間以上続いている人もいました。新型コロナに最初かかっていたとしても時間が経ったためにPCR陰性になったのかもしれません(2020/4/19のブログ参照)。これらを踏まえたうえの「陽性者なし」です。インフルエンザも調べた範囲では「陽性者なし」でした。結局、発熱や風邪症状の大部分は原因不明のままです。おそらく、一般的な急性ウイルス性上気道炎だったと思われます。
その一方で、治療方針が明確な疾患も少なからず認められました。
例えば溶連菌による急性扁桃炎。それなりの数がありました。高熱と咽頭痛の問診で疑いますが、咳が出ると言われるとPCRの結果が出てからあらためて診察ということになってしまいます。本当は、喉を観察すればすぐに疑うことができ、喉をこすって検体を採取すれば15分で診断は確定します。有効な既知の抗生物質を一定期間投与すれば他人に移す危険を減らし、確実に治すことができます。しかし、コロナを考えると、喉を診ることがためらわれます。喉をこすって咳でもされたら、コロナの場合、一発アウトです。ドライブスルーでは喉の奥をのぞくことはできません。結局、PCR陰性を確認し、後日あらためて診察室で喉を診て「ごめんなさい」を言うことになります。この時点で2日遅れです。4日以上発熱が続いてから受診となれば、合わせて1週間遅れです。PCRの結果がもっと遅れれば10日遅れにもなります。溶連菌感染症は他人に移しますし、腎炎やリウマチ熱など全身合併症を誘発する可能性の高い疾患です。それを1週間以上も放っておくことは、これまでの医療では、到底許されません。
そのほか発熱の原因として肝膿瘍がありました。結腸憩室炎もありました。もちろん、細菌性の市中肺炎、誤嚥性肺炎も少なくありません。そのなかには異物誤嚥による肺炎がありました。

発熱があるからという理由で診療をしないのは医師として許されるのか、と思う一方、リスクを最小にしたいという人間としての本能も、理解できなくはありません。別の患者がたくさんいるのだ、職員を抱えているのだ、それぞれに大切な家族がいるのだ、万が一にも感染したら破滅するのだ、と言われると、返す言葉がありません。
でも、でも、と思うのです。