医療を年単位で考えることもあれば、月日の単位や時間単位、ときに分単位、秒単位で考えることもあります。多くの内科疾患は年単位だろうと思いますが、急性肺炎・急性腎不全だと日単位、急性心筋梗塞・急性脳梗塞は時間単位となるかもしれません。救急センターの現場、例えば目撃者のある心肺停止では、分単位や秒単位で勝負が決まる場合もあると思います。
緩和ケアはどうでしょうか。一般的には月単位か週単位です。

しかし、緩和ケアはときに急性期医療です。そう思い知らされた事例に最近出会いました。
元気だった人が突然体調を崩しました。症状が出てすぐA病院に入院しました。1週間後にがんの診断が下されました。残念ながら転移が広がっていて、手術どころか薬物療法も適応になりません。残された治療は緩和ケアだと結論されました。発病2週間が経っていました。A病院には緩和ケア病棟がありません。緩和ケア病棟を持つB病院に紹介されました。1週間後にB病院の緩和ケア科の外来を家族が訪ねました。本人はとても外出できる状況ではありませんでした。入院手続きを済ませましたが、B病院への転院は早くて2週間後とのことでした。緩和ケア病棟会議で多職種による週1回の審査があり、そこで認められないと入れないから、とのことでした。転院を待つ間、がんは驚くべきスピードで進んでいきました。患者の体力はどんどん落ちていきます。苦痛を除くため、A病院のスタッフは一生懸命尽くしてくれました。しかし、急性期病院の慌ただしい病棟では緩和ケアに慣れていません。療養環境もふさわしいものではありませんでした。苦痛のうめきが止みません。
「助けてください。」
家族の懇願がたまたま届きました。関係の方々にお願いしてみたところ転院の日が予定よりも数日早まりました。しかし、B病院への転院まであと2日というとき亡くなられました。発病からわずか4週間でした。

誰が、いつ、どこで、何を、どうすべきだったのか。
まず思うのは、緩和ケアは必ずしも緩和ケア病棟で実施されなくてもよいのではないか、ということです。苦痛への対処法は緩和ケア専門のスタッフでなくても全ての医療者が知っておくべきだと思います。緩和ケアの療養環境は、急性期病棟であっても工夫すれば整えられるのではないか、とも考えます。緩和ケア病棟の関係者には、緊急の場合も想定しておいていただきたいと強く願います。

自分が当事者になると必ずしも理想通りにはいかないだろうと思います。しかし、結果はどうあれ、全力で患者に寄り添う姿勢だけは忘れまいと思うのです。

緩和ケア研修会では事前e-learningが昨年から必須になりました。私は茨城県にいたとき旧指針で研修しましたのでe-learningはなく集合研修だけでした。埼玉県では新指針で研修を受けます。まずe-learningを始めてみました。分かっていたようで分かっていなかったことを痛感します。患者に寄り添うと宣言したからには、努力を重ねたいと思います。