日本膵臓学会が先週2日間にわたり都内で開かれ、参加してきました。
会長は膵臓がん薬物療法の第一人者、杏林大学腫瘍内科古瀬純司教授です。Mさんからの宿題「膵臓がんの新たな薬物療法」を調べる絶好の機会だと思いました。

がんの中でも膵臓がんは、治療の最も難しいがんとされます。手術で切除しても多くの場合、再発して不幸な転帰をたどります。世界の研究者が日夜努力している理由はここにあります。膵臓がんの治療薬については、今回の学会でも多くの発表がありました。
その一端を紹介します。
がんは、それぞれ特徴を持っています。その特徴(具体的に言えば、遺伝子の特徴)に合った治療、すなわち、個別化治療ががん治療では重要だと分かってきました。個別化治療が広がってきた理由の1つは、機器の進歩によって遺伝子解析が迅速かつ大量に行えるようになったからです。また、それぞれの遺伝子変化に合わせた薬が次々開発され、臨床でも使えるようになったことも個別化治療の推進の一因となりました。
個別化治療はprecision medicine(プレシジョンメディスン、精緻化医療、高精度医療など)とも呼ばれます。世界中でこのprecision medicineを膵臓がん治療に応用しようとする動きがみられます。今回の学会では、アメリカのパンキャンからの発表が注目されました。パンキャンは膵臓がん患者支援のNPO団体です。ロビー活動などで研究費を集め、Know Your Tumor(自分のがんを知ろう)というキャンペーンを全米で立ち上げています。膵臓がんのprecision medicineを企画・実行し、膵臓がん治療の壁を打破しようと意気込んでいます。
今回の発表内容は以下のようでした。

680名の膵臓がん患者について、がんの遺伝子324種類を調べたところ、患者の約1/4(185名)で治療に役立ちそうな遺伝子異常が見つかりました。このうち、個々の遺伝子異常に有効とされる薬物が存在し、しかも、その薬物を実際に使えたのは44名でした。この44名の生存率や無再発期間は、それ以外の人たち(遺伝子異常があっても治療薬がなかった又は使えなかった141名と、そもそも遺伝子異常がなかった495名)に比べ格段に良かったとのことでした。
この結果を踏まえると、膵臓がんでは今後、遺伝子異常を網羅的に調べ、それに基づく薬物治療がよいということになります。我が国では幸い、数百個のがん遺伝子を解析する検査が今年6月から保険で認められるようになりました。
ただし、問題は山積しています。治療に役立ちそうな遺伝子異常が見つかるのは依然として一部に過ぎないこと、遺伝子異常が見つかってもそれに対する薬物がなお少ないこと、遺伝子検査が6月に保険収載されても実際の臨床ではまだ始められていないこと(体制づくりに手間取っているとのこと)、などです。
多くの問題が残り、進歩がじれったいほど遅いのも事実です。しかし一歩一歩、前に進んでいるのは確かです。

Mさんへの報告としてまとめてみました。Mさんのいつもの言葉「でもね、先生」が聞こえるような気もします。