認知症専門医がアルツハイマー病になったとき(1)

 

認知症診断で有名な長谷川式スケールの開発者である精神科医・長谷川和夫氏は自らが認知症になっていることを公表しています。
そのことを初めて知ったのは読売新聞(2017/11/16)のインタビュー記事でした。長谷川氏は当時88歳。そのタイトルは衝撃的でした。
「認知症 ありのままの僕」。
「年相応の物忘れもあるが、長い診療経験から認知症であることは間違いない。自分がやったこと、やらなかったことへの確信が持てない。(中略)ショックかって? 年を取ったんだからしょうがない。長生きすれば誰でもなる。ひとごとじゃないってこと。100歳を超えてならないピカピカの人もいるが、時間の問題だと思う」。
さらに続けます。
「認知症の本質は、これまでの暮らしができなくなること。本人は相当つらく、悲しい思いをしているから、周囲がそれを理解して、支えることが大事。(中略)要は『その人中心のケア』。こちらの都合で介護するのではなく、その人らしさを尊重し、同じ目線で接する。それには、聞くことが大事。聞くということは相手の答えを待つこと。待つということは、時間をその人に差し上げることだと思うんだよね」。
最後にこう述べています。
「この先、自分がどうなるかはわからない。自分や身近な人のことがわからなくなったらどうしようとの恐れはある。でも、落ち込んでいるより、人と話してみるなど、一歩踏み出すことが肝心。宗教や祈りも力を与えてくれる。自分にできることをしながら後は運命に任せ、今を生きていく。そう思っているのですよ」。

その3年余りのち、長谷川氏の娘さんが父親との共著「父と娘の認知症日記」を出版したことを朝日新聞(2021/1/28)が報じました。
「あなたが認知症になったら本物の研究者だよ―。かつて先輩医師に言われた一言を思い返し、診断後の日記に書きとめていた長谷川さん。『患者側になって学ぶことがたくさんある。学び続けて発信したい』といまも語っている」。
娘のまりさんはこう加えています。
「認知症でいろいろなものが失われても、その人が持つ本来のよいものは消えない。そんな安心感を父から感じています」。

次回は、アメリカの認知症専門医の話をお伝えします。