軽い衝撃

体外衝撃波治療(extracorporeal shock wave therapy; ESWT)と言えば、私の世代は結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy; ESWL)を思い浮かべます。
西ドイツ留学から帰った35年ほど前、大学ではドルニエ社製の結石破砕装置が尿路結石に使われていました。外科の胆道グループは、この装置を胆嚢結石の破砕に応用しようと臨床研究をしていました。バスタブのような大きな器に患者は水着をまとい、うつ伏せで水の中にじっとしていました。バンバンバンと衝撃を受けるたびに患者は小さくうめいていました。焦点の精度は今から思えばさほど正確ではなかったはずです。しかも胆嚢結石は呼吸性の動きが大きく、また胆嚢の周囲には肝臓だけでなく十二指腸や大腸があります。そのため衝撃波による他臓器損傷が懸念されました。また、結石の破壊効率はそれほど高いものではなかったと記憶しています。仮に細かく砕けても、それが胆管に落ちて嵌頓し、強い疼痛と肝障害が生じる例もありました。胆石溶解薬の内服併用で合併症が防げないか、などの研究も試みられていました。

その後、ESWLの装置は小型化し、水槽を必要としなくなりました。ESWLで砕ける胆石と砕けない胆石の特徴がわかるようになり、適応が厳格化していきました。尿路結石や胆嚢結石だけでなく、膵石にも応用されるようになりました。それでも、消化器分野ではESWLの適応は限られていました。胆嚢結石に対して苦労しながらESWLを行なっている間に、腹腔鏡下胆摘が現れ、それが低侵襲の根治的治療として確立されると、胆嚢結石に対するESWLは少なくとも消化器外科領域ではほぼ忘れ去られてしまいました。私の頭からも消えていました。

先日、医局のメールボックスに「収束型体外衝撃波治療の新たなデバイス」という講演会の案内が入っていました。何を今さら、と思いつつ演者を見ると整形外科医とリハビリの先生がたでした。裏面のプログラムには「下肢への適応と国内状況」、「上肢への適応と国内状況」、「リハビリテーション医学における臨床的応用」などのタイトルが並んでいました。体外衝撃波が整形外科領域に及んでいたのです。軽い衝撃を覚えました。
今回のセミナーは泌尿器科医や消化器内科医・外科医向けではありません。整形外科医に対してでした。当日、少し身構えながら拝聴しました。

体外衝撃波の機器には格段の進歩がみられました。最新機器のメーカーにドルニエ社(ドイツ)がありました。懐かしい名前です。シュトルツ社(スイス)の機器の名前はDuolith(デュオリス)。Duoは2つ、Lithは結石です。尿路結石と胆石の破砕が主目的で開発されたのかもしれません。
衝撃波発生装置の原理は、昔聞いていたので違和感はありませんでした。しかしなぜ整形外科領域で衝撃波装置が使われるのか。
報告を聞いていくと、この治療法は関節の石灰化が障害となっている疾患に有効なことがわかりました。結石治療に使われたのと同じ原理です。分かりやすい理屈です。しかし、難治性の腱症や偽関節に効果があること、鎮痛効果が高いこと、抗炎症作用があることなどを聞くと、その治療効果の理由については必ずしも分かりやすいものではありませんでした。
日本で保険適応になっているのは難治性足底腱症だけとのこと。疲労骨折や骨端症の治療成績も良好のように思えましたが、いずれも自費診療とのこと。
真に有効であれば保険適応にならなければなりません。整形外科は専門外ですが、数十年前からの付き合いのよしみで注視していきたいと思います。

このセミナーでもうひとつ注目していたことがあります。
それは日本の演者がいずれも船橋整形外科の医師だったことです。
この病院のことは、私の患者さんから聞いていました。そのかたは利き腕の腱板損傷を負って理容師の仕事ができなくなっていました。難しいケースだったようで、地元の整形外科医は船橋整形外科のS先生に紹介しました。私からもS先生に電話で「よろしく」とお願いしました。その患者さんは110km先まで通院し、手術を受け、リハビリを行いました。関節の動きは完璧とは言えませんでしたが、仕事に復帰することができました。別の病気のことで私の診察室に来られると、船橋整形外科のことをよく話してくれました。患者の数が半端でないこと、S先生の素晴らしい人柄、リハビリスタッフの優秀さを繰り返していました。

どのような理由であれ、異分野を覗くのは悪いことではありません。軽い衝撃が心地よいです。