進行メラノーマの治療成績〜免疫チェックポイント阻害薬の役割〜

昨夜、企業主催のセミナーを聴講しました(図)。
テーマは進行メラノーマの治療、演者はドイツ・エッセン大学皮膚科シャーデンドルフ教授です。

メラノーマとは黒色腫のことです。簡単に言えば黒子(ほくろ)の腫瘍です。腫瘍には良性と悪性とがありますが、メラノーマ(黒色腫)と言えば一般には悪性(=悪性黒色腫)、すなわち、がんです。
メラノーマは皮膚がんの一種ですので担当診療科は皮膚科です。私の専門ではありません。それでも、メラノーマにはいくつもの思い出、しかも、つらい思い出があります。

大学卒業1年目、下っ端の研修医として大学病院にいました。担当患者にメラノーマ末期のかたがいらっしゃいました。敬語を使うのは、ついこの前までの学生時代に臨床を教えていただいた講師の先生が患者さんだったからです。足の裏の黒子が原発巣でした。皮膚科で切除したものの全身に転移していきました。なぜ最期に外科に入院されていたのか、詳しいことは忘れました。しかし、採血や点滴のたびに、厳しいながらも優しい言葉をかけていただいたことは忘れません。亡くなられてから病理解剖に立ち会いました。大小の黒い斑点が全身の臓器に広がっているのを見て、思わず目をそらしました。

膵臓外科を専門とするようになってから、膵臓がんを担当することが多くなりました。手術で切除したある膵臓がんの顕微鏡所見が興味を引きました。通常の膵臓がんとは異なる細胞の形状をしていました。通常の膵臓がんは膵管がんと呼ばれ、外分泌である膵管から発生するタイプです。それ以外のタイプは稀ですが、その中でも比較的多いのが膵臓の内分泌細胞に由来する内分泌細胞がんです。ところがその例では、内分泌細胞の特徴を証明する特殊な染色で観察しても、その所見が全く見られませんでした。
ある研究会でこの症例を発表しました。顕微鏡の標本を持参し、何人かの専門家に実際にみてもらいました。するとある専門家が顕微鏡をのぞきながら「これはメラノーマの転移ではないか」と言ったのです。
まさか・・・。
「腫瘍は黒くなかったはずです。どうしてそう言えるのですか」。
偉い病理の先生に突っかかるように言いました。
「ほとんどは黒くないのですが、ごく一部にメラニン(黒色素)が見えます」。
顕微鏡でその場所を見せてもらいました。
「確かに・・・」。
病院に戻ってからカルテを調べると、なんと10数年前に手首のメラノーマの手術を受けていたとの記載がありました。
その患者さんもやがて再発で亡くなりました。

メラノーマは難治がんの1つですが、稀ながら免疫療法が効くことがあるとずいぶん前から言われていました。免疫療法の1つである免疫チェックポイント阻害薬の出現によって成績がよくなっているとの噂を聞いたことがあります。
免疫チェックポイント阻害薬の代表がオプジーボ®️(一般名:ニボルマブ、2021/8/4ブログ参照)です。本庶 佑(ほんじょ たすく)先生によって開発され、2018年のノーベル賞に繋がりました。オプジーボ®️のあと他の免疫チェックポイント阻害薬が続々と登場しました。
あのメラノーマ、しかも絶望的と言われていた転移を有する進行メラノーマは免疫チェックポイント阻害薬によってどう治るようになったのか。
今回の発表を興味深く拝聴しました。

驚くべき成績でした。もちろん100%の生存率はあり得ません。それでも、手術の切除範囲を超えた進行メラノーマの5年生存率は、オプジーボ®️単独で50%、イピリムマブ(ヤーボイ®️)という別の免疫チェックポイント阻害薬と併用すれば57%に上ります。しかも、3年以上生存するとほぼ完治と言えるほどその後の生存率に低下が見られません。治療を止めても同じだというのです。
肝転移や脳転移があると、かつては長期生存はほぼゼロでした。上記の併用療法であれば5年生存率は、肝転移があっても43%、脳転移の無症状者であれば51%です。

免疫チェックポイント阻害薬には自己免疫疾患などの副作用があります。併用療法だとその頻度は高くなります。ところが副作用のために服用を中止しても免疫チェックポイント阻害薬の効果は持続します。したがって副作用はあまり問題にならないというのです。

メーカーがスポンサーになった講演です。当然、割り引いて聞かなければいけません。しかし、昔を思い出すと、隔世の感があるのは事実です。