銀河でダンス

先週もう1人。結局、1週間に5人のかたとお別れをしました。
重症者が急に減り、脱力感を覚えます。不謹慎の誹りは免れませんが、妙な安堵感もあります。一方で、皆の魂はどこへ行ったのでしょうか。今までの数多の人たちはどうしているのでしょうか。
キューブラー・ロスの次の言葉を思い出します。

「語りかけ、手を触れることのできた相手が翌朝にはいなくなっていた。私に多くのことを教えてくれ、かき消すようにいなくなってしまったあの素晴らしい患者たちには一体何が起こったのだろうか」。

2006年4月に放映されたNHK BSスペシャル「最後のレッスン〜キューブラー・ロス かく死せり〜」に出てくる彼女の言葉です。

「あなたは、自分の死について考えたことがありますか」。
この語りで番組は始まりました。

「死」を臨床研究のテーマに据えたおそらく最初の近代的な医師であったエリザベス(エリザベート)=キューブラー・ロス。その著書 “On Death and Dying(死とは、死ぬこととは)”(1969)(邦訳「死ぬ瞬間」、読売新聞社、1971)で、死にいく人々とのインタビューを通し、5つの段階「否認・怒り・取引・抑うつ・受容」が錯綜しながら死へと進むことを示しました。実に思慮深く、暖かく、しかし冷徹に、死を解析しました。

その彼女自身の、死にいく姿を追ったのがこのドキュメンタリーです。

「死後の世界。その探求にキューブラー・ロスは夢中になっていきます」。
このナレーションのあと、母語のドイツ語で彼女は語り始めます。

「死の瞬間はすばらしいものです。自由への解放なのです。蝶がサナギから抜け出すように、ひとは身体から抜け出すのです。そして人間の不死の部分が物理エネルギーから精神的なエネルギーへと変化します。これは死の第二段階です。そこでは死者に会うことができ、誰もが完全な身体となります」。

科学的とは言えない世界に入っていくキューブラー・ロス。
晩年、活動拠点を放火され、数度の脳卒中発作に襲われました。その末の最期をコヨーテの住むアリゾナの砂漠まで取材班は追いかけます。

「脳卒中の発作を起こしたとき、神に『あなたはヒットラーだ』と呼びかけた。『ヒトラーなみだ』と言ったのに、神はただ笑ってた。それでますます頭にきたわ。40年間も神に仕える仕事をしてきてやっと引退しようと思っていたら、何もできなくなってしまった」。
不敵にタバコの煙を吐き出すキューブラー・ロス。もどかしげにピックアップ歩行器で歩むキューブラー・ロス。
この映像は何を伝えようとしているのか。
息を呑んで見るうち、最終章を迎えます。

「死後にはどうなるとお考えですか?」
「もう一度ダンスができるわ。死んだら全ての銀河でダンスをするのよ。私は生きている間、十分ダンスをしてこなかったから。」

(2004年)8月19日木曜日、ホスピス専門家がキューブラー・ロスと最後の会話を交わします。
「はじめ、彼女はひどく痛みを訴えていて、『旅立ちの準備はできた?』と聞くと、『まだ』と言いました。痛みをとってから再びエリザベスに『旅立ちの準備はできた?』と聞いたら、『まだよ』と。『どうやって行く準備ができたと分かるの?』と聞くと、『頭から爪先まで全身で準備ができたと分かるわ』と」。

「8月21日土曜日、キューブラー・ロスは昏睡状態のまま危篤に陥ります。
最後に反応したのは家族に対してでした。
2日後、娘のバーバラさんが孫を連れて到着します。
『私たち、ここにいるのよ』と呼びかけますと、キューブラー・ロスは瞼をわずかに動かしました。これが最後の意思表示となりました」。

「人間らしい死を。そう訴え続けて20世紀の医療に大きな足跡を残したエリザベス=キューブラー・ロス。その墓は、アリゾナ州スコッツデールにあります。
墓碑銘にはこう記されています。
『喜びや悲しみを分かち合う友人、教師、そして自らも一人の生徒であった。人生を卒業して、今、銀河でダンスを踊る』」。

私も別れた方々のそのときどきの姿が心に浮かびます。ダンスを楽しむ姿を夜空に思い浮かべながら。