静岡茶とともに

私にとって茶の産地と言えば埼玉県の狭山地方。生まれ育った飯能市のすぐ近くだからです。ランクがあるにしても、通常のお値段であれば自信を持ってお勧めできます。お世話になったかたには狭山茶を贈るのが長年の慣わしでした。

前任地の茨城県では、北限の茶どころ、奥久慈茶が有名でした。本来、茶は温暖な土地に育ちます。真冬に氷結する袋田の滝のさらに北の奥地に広がる山間の茶畑は、不思議な光景でした。奥久慈茶は高級茶でもありますので、喫茶の機会は少なかったのですが、寒冷地特有(?)の渋みが印象的でした。
茨城県のもう一つの茶どころは猿島(さしま)地方です。猿島茶は県の西南部、埼玉に近い平坦地で栽培されます。県内では比較的多く出回り、価格もお手頃でした。風土が似ているためか、狭山茶と同じような穏やかな味わいがありました。

茶の産地は、関東・下越から南の全国に広がっています。しかし、何と言ってもダントツは静岡県です。
先日、静岡出身の師長が実家のお茶を病院の皆に配っていました。私も深蒸し茶(菊川茶)を1袋頂戴しました。休日の余裕のあるとき、ゆったりとした気分でその茶の香りを楽しみました。深みと旨味に、さすが静岡茶だ、と感心しました。
静岡茶を見直している最中、別の静岡茶が届きました。すぐに思い出せないお名前のかたからでした。添えられた手紙で思い出しました。
直接の診療にたずさわったわけでありません。数年前、主人のことで、とある女性から相談を受けました。そのかたからでした。

なぜと思いつつ文面に目を通すと、理由が分かりました。ご主人が亡くなられたからでした。悲しいお知らせでした。それでも、美しい文字で記された内容に心打たれました。最期は入院ではなく、在宅を選ばれたとのこと。「病院に行くよりあの世が良い」とおっしゃっていたそうです。
次の日曜日、心を整えてそのお茶をいただきました。
さすが静岡茶。再び感心しました。
静岡茶を飲みながら、手元に残るご主人の学会抄録のコピーを読み直しました。奥様のお許しをいただき、論文の最初と最後を皆様にお示しします。

ご冥福をお祈りします。