1回の手術で、どのくらいの費用がかかるのですか

 

中学1年生からの質問の1つです。
今まで医療教育のお手伝いを多くしてきましたが、手術の費用、あるいは医療費について質問を受けた記憶はありません。
医療費に対し私たち医療職は複雑な思いを持っています。

全国一律に決められている診療報酬。都市部であっても医療過疎地域であっても診療報酬は同じです。そもそも診療報酬は正確な原価計算から導かれているものではありません。
では何に基づいているのか。
これがブラックボックスに近いものなのです。
診療報酬は2年に1回改定されます。その改定率に連動して個々の診療報酬が決められているため、「そもそもあるべき診療報酬はいくらなのか」がもはや不明になっているのです。
2021年12月21日、厚生労働大臣と財務大臣との折衝で2022年度の診療報酬改定率はプラス0.43%に決定しました。プラス改定で良かったという医療関係者もいれば、こんな低いプラスではやっていけないと憤る医師もいました。一方、保険者側(=支払者側)は、プラスなんてとんでもない、なぜマイナス改定でないのか、とこれまた憤っていました。
賛否両論の中、政治決着で診療報酬は決まりました。政治決着すると、もはや誰も覆せません。

総額でプラス0.43%と決まっても、個々の診療報酬、例えば胃切除術の手術料の改定にはさらに細かな「計算」がされていきます。
2022年度診療報酬改定の1つの目玉は不妊治療の保険適応でした。今までの診療行為の報酬を全てプラス0.43%にしてしまうと、不妊治療の分が出てきません。何かをマイナスにしなければなりません。では、何と何をどのくらい減らすか。こうした「思惑に満ちた複雑な計算」で2022年度の個々の診療報酬が決まりました。
「思惑に満ちた複雑な計算」は2年ごとに繰り返され、それが半世紀以上続いてきました。「複雑な計算」は数字の上でどれほど正確に行われても、「思惑」がある限り原価計算とは程遠いものです。ですから、実情との隔たりがあります。しかし、これに不満を言うことはできません。不満があれば保険診療を止めて、自由診療にすればよいと言われてしまいます。
医療という公的事業のほとんどが、あるいは多くが自由診療になったら日本の医療はどうなるでしょうか。やむをえず保険診療を続けます。矛盾をいっぱい感じながらもそうしています。

昨今は値上げラッシュです。電気代、ガス代、燃料代、食料費、材料費の高騰で販売店もメーカーも卸も運送業も値上げをしています。しかし診療報酬の値上げはありません。次の改定まであと1年、今の価格は据え置かれます。2024年度診療報酬改定では「電気代、ガス代、燃料代、食料費、材料費の値上げ分をまとめて、そうね、0.3%プラス」なんてことになるのではないかと思います。10%プラスなんてことは決してありません。なんだかんだの理屈から、ゼロ改定、マイナス改定もありかも。

さて本題です。
「1回の手術で、どのくらいの費用がかかるのですか」。

中学生からのこの質問に考え込みました。診療報酬を巡るさまざまな思いがよぎったのです。
徹夜して23の質問に答を書いたことは前回述べました(2023/2/10ブログ)。最も多くの時間を割いたのがこの質問に対してでした。
答はスライド2枚になりました。

それにしても、と思いました。
医療現場の苦労を知って質問したのか、あるいは単純な興味から質問したのか。教室で質問者に聞いてみたいと思いました。ただ、40分の授業の中では「手術の費用」のところまでとても辿り着けないと思いました。文書回答で許してもらおうと思い、あらかじめ印刷しておきました。

当日、その中学校(神栖市立第一中学校)を訪れると、ヒントがありました。質問した生徒に聞いたわけではありません。
学校の廊下や教室の至る所に「DO YOU? CAN YOU? 金融」のポスターや標語が貼ってあったのです。
「これは何ですか」。
校内を一緒に移動していた校長先生にお聞きしました。
校長先生は待ってましたとばかり説明してくださいました。
この学校では年間を通して金融教育に力を入れている、日本銀行水戸事務所の関係者を招いて金融の授業をしている、とのことでした。某経済紙にも取り上げられたことがあるそうです。

学校教育の目的は社会に出てからどう生きるかを教えることです。
算数、国語、理科、社会と並んで金融を教える。
なるほど。
もしかしてNISA(ニーサ)を教えるのだろうか・・・。だから経済紙が評価するのだろうか・・・。
すかさず校長先生にお願いしました。
「来年度は年間を通しての医療教育をお願いします!」。