大宮医師会報の表紙の裏にいつも掲げられているのが「医事紛争を起こし易い10の条件」です。自分の長年の経験に照らし合わせてもこの警句は当たっています。ただし、重要度はこの数字の通りではないと思います。自分なりに重要度順に並べると次のようになります。

1. 人間関係の構築不足
2. 不勉強
3. チームワーク不足
4. 後医が前医の批判をする
5. 自信過剰と背伸び
6. 他医へ紹介したがらない
7. 多忙
8. 不注意
9. 余計な独り言を言う
10. インフォームド・コンセント(IC)不足

訴訟に巻き込まれる最大の要因は「人間関係の構築不足」です。患者さんやご家族と普段から良い関係を築いていれば、たとえ次に挙げる不勉強やチームワーク不足や多忙のために患者さんにとって不利益なことがあっても訴訟に至ることはまずないと思っています。もちろん、だから不勉強であっても良い、チームワークが不足していても良い、多忙が言い訳になる、というものではありません。
2番目は「不勉強」です。医師に限らず、プロというのは「知らなかった」では済まされないのです。もちろん、人間ですので全知全能ではありません。知らないことがあっても許されます。問題は絶えず知ろうとする姿勢です。それが勉強です。不勉強とは、勉強をしようとしないこと、と解せば、重要度の2番目に挙げてよいと思います。
3番目の「チームワーク不足」はまさにその通りです。今や医療は医師の専権事項ではありません。さらに言えば、患者や家族まで巻き込んだ統合的なものでなければなりません。それをチームワークあるいはチーム医療と呼ぶのであれば、その不足・欠落は決して良い医療には繋がりません。
4、5、6は関係し合う項目です。後医は前医よりも時間的に後になって診ますので、診断にせよ治療にせよ適正なレベルに近づいているのは当然です。なぜこんな誤診をしたのだろうと考えることはせず、「何の情報もない状態で最初に診たとしたらどこまで診断できるだろうか」と素直に考えるべきです。そして患者中心に考えれば、他者に意見を求める、ということが当然思い浮かぶはずです。他者とは、医師である必要は必ずしもありません。身近な看護師や薬剤師、コメディカルに意見を求める、助けを求めることがあってもよいと思います。
7番目の「多忙」で思い出すのは、若い医師によく言っていたことです。「忙しいは言い訳にならない」。「時間は作るものだと」ということもよく言っていました。
「不注意」を8番目にしたのは、注意というのはどれほど気をつけていても、不注意は免れないからです。仕方ないということでもあります。個人の不注意を補うシステムを作ることこそ、医療安全の要です。
9番目の「余計な独り言を言う」という意味はよく分かります。つまらないことを呟いたために、誤解され、不信を買うことがあるからです。しかし、独り言が全ていけないかというと決してそうではないと思います。問題は「余計な」にあります。何が余計で、何が余計でない(つまり、自然なつぶやき)か、は意外と難しいものです。患者さんの努力でデータがよくなったのを見たとき、自然なつぶやきで「すごい!」と独り言を言うのは決して悪いことではありません。
最後の10番目としたのが「インフォームド・コンセント(IC)不足」です。既にこのブログでお伝えしましたが、インフォームド・コンセント(IC)は患者がするものであって医師あるいは医療者がするものではありません(インフォームド・コンセントは患者がするもの 2019年8月16日の記事より)。したがって「IC不足」という表現は医療者が主語となる考え方ですので拙いと思います。さらに、「ICを十分にもらっていないから訴訟になる」という考えは、「サインをもらっていない」という形式的な問題にすり替えられる懸念があります。

結局、訴訟に巻き込まれないようにすることを強調すると、自己防衛の話になってしまいます。大切なのは、訴訟に巻き込まれないことではなく、患者さんにとって良い医療をすることです。その視点に立って「医事紛争を起こし易い10の条件」を読むと、良いことを言っているな、と思えてくるのです。