学校でのがん教育のあり方〜医療現場から教育現場へ

昨日午後、茨城県高等学校教育研究会養護部の研究会に呼ばれ、「学校でのがん教育のあり方」を発表してきました。スライドの一部をお示しします。

学校でのがん教育は、中学・高校の新しい学習指導要領(中学校:2021年度〜、高等学校:2022年度〜)に明記され、まもなく全国で行われることになります。がんについての正しい知識を学校で教えようというのです。しかし、今まで学校でがんを教えることはほとんどありませんでした。教員の中に多くの戸惑いがあります。
茨城県では2014年度から県教育庁が主導して「がん教育推進協議会」を立ち上げました。小学校・中学校・高等学校の教員や養護教諭、学校医、県医師会、がん専門病院医師、がん体験者、県保健福祉部担当者、県教育庁担当者などが定期的に集まって様々な角度から検討を進めてきました。その成果は、県の総合がん対策推進計画に組み込まれています。小学生・中学生・高校生それぞれに向けた「がん教育啓発教材」も独自に作成しました。学校現場には、がん患者会のメンバーと協力して医師も赴き授業を担当してきました。そのお陰もあって、茨城県内のがん教育は他県に比べ進んでいるように思えます。
私は5年間、茨城県のがん教育に関わってきましたが、埼玉県に越したこともあり、この1年間はがん教育の現場から遠ざかっていました。今回、高等学校の養護教諭の先生がたの要請を受けて、1時間半余り発表をさせていただきました。

がんの現状を説明し、国や県の考えるがん教育のあり方を説明しました。
がん教育にあたっては、小児がんの当事者や体験者への配慮、家族にがん患者がいる場合あるいは家族をがんで亡くした児童生徒がいる場合の留意点もお話ししました。また、医師やがん体験者などの外部講師を招く際の注意点にも触れました。
文部科学省は私たちが作ったのと同じようながん教育教材を提示しています。今後、全国でも同様の試みがなされると思います。新学習指導要領に基づく教科書が発刊されれば、教科書に基づくがん教育が中学・高校で一斉に始まります。

私がいつも強調しているのは、がん教育は結局、医療教育になるということです。がんのリスクを下げるには生活習慣の改善が必要です。①禁煙、②節酒、③運動、④食生活の見直し、⑤適正な体重の5つが肝要です。加えて、肝炎ウィルス(肝がん)・ピロリ菌(胃がん)・ヒトパピローマウィルス(子宮頸がん)感染症への対応ががん予防には大切です。5つの生活習慣の乱れは、肥満やメタボリック症候群を引き起こし、がん以外にも糖尿病、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、腎障害、うつ、さらに、認知症などのリスクを上げます。
小さいうちから生活習慣の重要性を学校で教えれば、医療費を抑え健康寿命は伸びることが期待できます。

医療改革は今まで、医療供給体制や医療者教育の強化など医療者側への対策ばかりが目立ちました。一方、医療を受ける側(受療者側)への対策は余りに少なすぎました。
「参療」のことを以前このブログで取り上げました。

国民ひとりひとりが正しい知識を持って医療に関心を抱くようになれば医療の質は確実に上がります。そのためには今後、医療教育を義務教育のなかに組み込むべきです。文部科学省が医療に一層関与することを期待します。国民全員が学校で医療を学べば、患者自らが真の意味でのインフォームド・コンセント(理解と納得)を表明できるようにもなります(ブログ参照 2019年8月16日 インフォームド・コンセントは患者がするもの)。
同時に、医療現場の負担が軽減され、限られた医療資源や医療費が有効活用されます。

「教育とは、社会のなかで自立できるよう教えることではないでしょうか。」
私の結論でした。