大動脈弁狭窄症の最新治療(院長)

心臓弁膜症の治療は近年大幅に進歩しており、特に大動脈弁においてはカテーテル手術の割合が増加しています。今回は、大動脈弁狭窄症に対する2つの手術方法をご紹介します。
*本文の要旨は、公開医学講座(2026年7月18日)にて発表しました。
Ⅰ.大動脈弁狭窄症とは?
心臓には4つの弁があります。大動脈弁は心臓の出口にある弁で、この弁を通って全身に血液が送られます。心臓の弁が傷んでくる場合の変化は2種類あり、弁の狭窄(通過障害)と弁の閉鎖不全(逆流)です。

大動脈弁狭窄症は、加齢に伴って弁のふた(弁尖)が石灰化して開きが悪くなった状態です。心臓からの血液の出口が狭くなるので、心臓への負担が大きくなります。通常は徐々に進行するため、軽度の場合は内服薬での治療が可能です。しかし、心不全症状(息切れ、胸部痛)や不整脈などが出てきた場合は手術による根本的な治療が必要となります。

Ⅱ.大動脈弁置換術(人工心肺使用による標準手術)
従来から行われてきた手術方法です。人工心肺を装着後に心停止とし、大動脈弁を切除して人工弁を縫着します。手術の効果は確実で、長期成績も確立されています。近年では、より小さい傷で大動脈弁を置換する低侵襲手術も行われています。

人工弁の種類と選択
人工弁には、機械弁(カーボン製)と生体弁(ウシ・ブタの心膜)の2種類があります。機械弁は耐久性がありますが、抗凝固薬(ワーファリン)の内服が一生涯必須です。生体弁では抗凝固薬は不要ですが、弁の寿命は概ね15~20年です。そのため、患者さんの年齢によって、比較的若い人には機械弁、高齢者(65~70歳以上)には生体弁を用いるのが一般的です。

 

Ⅲ.経カテーテル的大動脈弁置換術
大動脈経由でカテーテルを挿入し、大動脈弁の位置に生体弁を圧着させる新しい手術方法です。人工心肺は使用せず、非開胸、心拍動下に行います。
英語名の頭文字をとって、通常はTAVI(タビ)と呼ばれています。
*TAVI: Transcatheter(経カテーテル) Aortic Valve(大動脈弁)
Implantation  (移植術)

本手術は2002年にヨーロッパで開始され、日本では2013年10月に一般的治療として認可(保険収載)されました。TAVIの実施施設として認定されるには厳格な審査があり、ハイブリッド手術室(カテーテル治療と心臓手術の両方ができる手術室)や多職種(医師、看護師、技師など)によるハートチームの結成や研修が必要です。私が勤務していた都立墨東病院では2018年に開始しました。
手術風景(都立墨東病院)
レントゲン透視下に、心エコーを見ながら位置決めを行います。

①人工弁の圧着:バルーンを用いて生体弁を圧着します。

②大動脈弁移植完了後

Ⅳ.開心術、カテーテル治療の特徴
いずれの手術も全身麻酔下に行なうため、手術前に患者さんの状態を詳しく検査します。開心術では確実な効果が得られますが、身体の負担が大きいため高齢者や体力の低下した方では行えない場合があります。カテーテル治療は低侵襲なため高齢者でも行えますが、弁のサイズやカテーテルの入口となる血管(動脈)の太さなどの面で適応には制限があります。また、長期の治療成績は現時点では明らかになっていません。
まとめ
・大動脈弁狭窄症の手術方法には、開心術とカテーテル手術の2つがあります。いずれの方法が適しているかは、大動脈弁の状態、カテーテルの入口となる血管(動脈)の太さ、患者さんの年齢や体力などで総合的に判断します。
・今後も手術方法の工夫や手術器材の進歩によって、より多くの方が手術による根本的治療が受けられるようになると考えられます。

2026年7月25日
石川 進